Call(6)










アングレカムの花畑を去って、リーマスに連れられて色々なところに行って、色々なことを聞かせてもらった。彼はわたしのことを見つめながら話した。まるで、どこにも行かないでと、言うかのように。わたしはどうしたら良いのか分からなかったけれど、ただ彼のことを想って、その話に頷いていた。リーマスが、ちょっと首を傾げる癖が治ってないね、と言った時には飛び上がりそうなほど、嬉しかった。わたしと””に共通点があることに感謝した。


それは、虚しいような、幸せなような。無彩色の宝石だった。


校舎に戻ってきた時にはもう空は薄暗くなっていて、夕食の準備も整っているようだった。わたしとリーマスが食堂に入っていくと、リリーが待ちかねた顔で駆け寄ってくる。


!どこに行ってたの?部屋にいなかったから驚いたわ」
「えっと、リーマスに案内の続きをしてもらってた」
「リーマス…貴方ばっかりとお話してるわ!」
「ふふ、リリー、妬いてるの?」
「ななななんだって!?リリーが妬く訳ないだろリーマスお前ちょっと表へ出ろ!!」
「ジェームズお前ぜったい勘違いしてるぞ。とりあえず座れ。スプーンを置け。ちょ、待っ、せめてフォークとかにしとけ!スプーンじゃ無理だ!勝てない!」


シリウスになだめられてジェームズは渋々席に着いた、ように見えるけど絶対分かってやってると思う。あのひとたち。わたしの視線に気づいたのかシリウスが顔を上げ、にやりと笑ってジェームズに言う。


にウケたぜ、良かったな、体張った甲斐があって」
「ははは!任せろ!どーんと!」
「…シリウスの今のコメントも、体張ってる、ね(にこり)」
「うわ、満面の笑みを浮かべた悪魔の手先がいる」
「手先じゃなくて悪魔なんだろうと僕には思われるよ」
「へえ、そういう認識だったんだ。その期待に応えなくちゃね」
「ジェームズ、そういうのを墓穴を掘るって言うんだぞ」
「ノープロ!(ノープロブレムの略)落とし穴なら得意分野!」
「それ今心底関係ないんだけど」


騒ぎ合っている3人を呆れた顔で見て、リリーはわたしに向きなおった。大きなエメラルドグリーンの瞳でわたしを見上げてくる。かっ、可愛い…!ジェームズの気持ちも分からなくはないかな。…や、それは、言いすぎかなあ。


、大丈夫だった?リーマスに変なことされなかった?」
「あはは、大丈夫だよ」
「本当?私、部屋に貴女が居なかったから心配で心配で…!」
「リリー、僕のことをなんだと思ってるわけ?」
「狼よ!」
「あぁ…うん、間違ってはないかな」
「肯定するなんて、危険極まりないわよ、!」
「え?え、あ、そう?」
「そういう意味じゃないけどね。まあいいや」
、部屋には私と一緒に帰りましょうね?約束よ?」
「う、うん!約束ね」


僕もまだに話せてないことがあるのに、と不満そうな顔をするリーマスをリリーは思い切り睨みつけて、もう十分じゃない、と不機嫌な声で言う。リーマスは肩をすくめて、ごめんね、そういうわけだからまた明日、と言う。


「な、何なのリーマスのあの余裕…!、そんなに仲良くなったの?」
「うん、まあ…」
「私ともたくさんお話しましょう」
「うん!ありがとう」


そう言ってにこりと笑うと、リリーも嬉しそうに頷いた。リリーって、美人で何でもできるように見えて監督生なのに、こんなに気さくで素直だなんて、ほんとずるいくらい可愛いなあって思う。わたしも、リリーと仲良くなりたい。なんだか初日なのに本当に恵まれてる…とは、思うけど。


恵まれているけど、それと同時に、諦めてしまった。リーマスがわたし自身を見てくれることを、もう、諦めてしまった。分かってもらうことよりも、少しでも傍にいることを望んでいる。少しでも彼が喜んでくれることを望んでいる。それがわたしの幸せなのかな。今していることは、ずるいことなのかな。彼の””に…申し訳ない気がする。本物の””さんは、死んでしまったのだろうか。リーマスがそういうことを受け入れられないような人にも見えないんだけど…それだけ、””さんが大事だったんだろう、な。ああ、羨ましい。


?食べないの?」
「ううん、食べるよ。いただきます」


リリーの声に我にかえって、わたしは考えることをやめた。わたしのことを考えるよりも、彼の幸せを祈ることの方が大切だということは、わたしにとって、分かり切ったことだったから。呼吸をするくらい当たり前のことなんだって、思った。それが、どんなに滑稽だとしても。










リリーと一緒に部屋に帰ってから、監督生専用のお風呂に連れて行ってもらった。いいのかな?って言ったら、別にかまわないわよ、とさらりと言っていた。リリーはこういうところも素敵だと思う。ふわふわの泡が浮かんだお風呂から上がって、部屋に戻ってベッドに寝転んだ。宿題があるからいつもこうはいかないけどね、とリリーが悪戯っぽく微笑んだ。


「私もとちょっとは仲良くなれたかな?嬉しいわ」
「わたしもとっても嬉しい!リリーと同じ部屋でよかった、本当に」
「ふふ、ありがとう」
「あ、そういえば…リリーはわたしが来るまで一人部屋だったの?」
「え?ああ…ううん、違うの」
「?同じ部屋の人はもう卒業したの?」
「いいえ、同じ部屋になるのは同学年だけよ」
「あ、やっぱりそうなんだ…どうしたの?」
「えっとね…うーん、ちょっと、色々あって」
「言いたくないの?言いたくないなら、別に言わなくて良いよ」
「ううん、そういうわけじゃないのよ。ありがとう」
「本当?」
「ええ、本当よ。むしろ、話したいくらい」
「そうなの?リリーが話していいなら、わたしも気になるから聞きたいな」
「ふふ、は優しいわね」
「え?そうでもないよ、普通だよ」
「そんなことないわ…前、同室だった子は、すごく意地悪だったもの」
「いじわる?」
「ええ。…昼間、シリウスのところに来た金髪の子、覚えている?」
「えっと、たぶん…名前、リーマスに聞いたのに、忘れちゃったけど」
「キャロル・ゴールドグレイブっていうの」
「うん、そんな感じの名前、だったかも…その子が、同室だったの?」
「ううん、そういうわけではないの。ふふ、だってあの子、違う寮よ」
「あ、そっか、そうだよね」
「わたしと同室だった子は、キャロルと仲が良かったの」
「うん」
「キャロルは私にやきもちを妬いていたの。私が、シリウスと仲が良いから。それで、その子に頼んで私の嫌なものを調べて送りつけたり、部屋に嫌がらせの手紙をおいたり…まあ、大したことじゃないのよ。それだけシリウスが好きだったのね」
「………」
、そんなに悲しそうな顔しないで」
「だって」
「ふふ、ありがとう。そうそう、それがあんまり分かりやすかったものだから先生にばれちゃって、その子は部屋を変えさせられて…まあ、そういうわけね」
「…寂しかったね」
「え?」
「寂しかったね、一人部屋になっちゃって」
「…ええ、そうね」
「リリーは、先生に言ったりしなかったんでしょう」
「え…」
「リリーは、良い子だね」
「そんなことないわよ」
「私だったら、相手のことなんて、庇えないかも」
「庇ってなんかいないじゃない、私も」
「ううん」
「…が来てくれて、良かったわ」
「え、ほんと?嬉しいなあ、ありがとう」
「私こそ、ありがとう」


わたしとリリーはそれから夜遅くまでずっと話していた。同年代の子と話したことなんて今までほとんどなかったんだけど、こんなに素敵なことなんだ。色々なことを、わたしも彼女も、想っていた。いくら話しても話しても足りなくて、わたしは自分の空白の時間を、勿体なく思った。











「おはよう、リリー!」
「おはよう、
「うっわ、ジェームズ式の挨拶はやめろよリーマス…」
「今日も女神あるいは妖精すなわちフェアリーのように美しくかぐわしいね!」
「え、シリウス?今きみ僕を、あれと一緒にしたの?(笑顔)」
「ごめんなさい間違えました」


翌日、談話室に降りるとジェームズとシリウスとリーマスの三人がいた。待っててくれたのかもしれない。主に、ジェームズがリリーを。あともしかしたら、リーマスがわたし…っていうか、’’を。


「…ジェームズ、朝から煩くしないで」
「あはは、おはよー」


じゃれあいながら談話室を出る時に、リーマスがすごく何気ないしぐさでわたしの手を取った。驚いてリーマスの顔を見ると、にこりと笑い返される。…。’’とはいつもこんな風だったのかもしれない。わたしは微笑んで、黙っていた。どきどきと心臓が高鳴るのは、彼の少し骨ばった綺麗な手の冷たい温度のせいなのか、後ろめたさのせいなのか、もう分からない。


朝食をとってから授業に向かう。最初の授業は、『変身術』らしい。先生はあのマクゴナガル先生だけれど、わたしは初めてだからちょっとは簡単なものから入るんじゃないかだろうというのがみんなの見解、だったんだけど。


「今日は一人ひとりに椅子を渡して、七面鳥に変えてもらいます」
「げ、無生物から生物って、結構難しいよな。は別課題か?」
「あの椅子から七面鳥だろ?サイズ…このままだと小さいな。大きくしたいとこだ」
「質量を変えるのもコツがいるわね」
、もしこれ一緒にやらなきゃいけなかったら、僕の真似してやってみてね」
「あ、うん…(難しいんだな…)」
「ミズ・!立ちなさい」
「あ、ハイ」
「皆さん、お気付きだとは思いますが、今年うちの寮に編入することになったミズ・です。色々と分からないことも多いでしょうから困っているようでしたら手助けを。…。ええ、もう座って構いませんよ」
「あ、はい。ご紹介ありがとうございました」


わたしはすとんと席につく。そこで初めて周りの子たちの好奇の視線に気がついた。とりあえずにこにこと笑ってみせる。肩を叩かれて振り向くと、リーマスがわたしの耳元で小さく囁いた。


「僕より素敵な人は、いる?」
「え?え、え、え、いや、あの、その」
「ふふふ」
「ちょっとリーマス、に何を言ってるの」
「別に、なんでもないよ?ねえ
「うん何でもないです本当」
「リーマス、ふざけるのもほどほどにね(にっこり)」
「ふふ、僕はいつでも真剣さ(にっこり)」
「(なんか怖い…!)」


リリーとリーマスの一触即発な様子に戦々恐々としながら、あたしは自分が座っている椅子からみんなと同じように立ち上がった。壇上では先生の説明の声。


「このように、杖を振って、このタイミングで、第二音節の発声を行います。…教科書279ページに書いてある通りです」


うーん、細かいな。しかも今あんま聞いてなかった。リーマスとリリーが怖くてあんま聞いてなかった。うん。(あの人たちまだいがみ合ってるんですけど課題に取り掛からなくて宜しいんでしょうか!)あー、どのタイミングで第二音節…だっけ?それとも第三音節だっけ?教科書の279ページ(たぶん)を開いているあたしの隣でシリウスが複雑な形に杖をふるう。


「おっ、出来た」
「はや!」
もやってみろよ、意外と簡単だ」
「うーん…」
「失敗しても良いんだぜ」
「やりなおせる?」
「ああ、戻してやるよ…えっと、反魔法は…次のページだな。うん、やってみろよ」
「うん」


シリウスに言われて恐る恐る…「あ、おい、もっと明確に動かせ。曖昧だと失敗する」「は、はい」やろうとしたけど止められたのでもう一度気を取り直して、教科書をちらりと見て確認して、それから記憶したとおりに杖をふるって呪文を唱える。


ボン!


「できた!」
「おー」
「わー!すごい!ありがとうシリウス!」
「フフン任せとけって」
「えっ何かその反応はちょっとうざいよ」
「お前、いつからそんな子に!」
「えへへ、ううん、ありがとう」


わたしが笑って答えると、シリウスも少し口角を上げた。最初の授業の最初の課題、上手くいって本当にほっとしたなあ。皆とは勉強の年数は比べ物にならないくらい少ないから。わたしも結構やれるじゃん!って、思ったんだけど、周りのみんなもすぐに成功していく。ジェームズなんて、七面鳥をどれだけ大きく、美味しそうにできるか、に挑戦し始めた。(この段階で美味しそうとか、分かるのかな。)


お前、意外と簡単?とか思ってんだろ」
「あ、そうそう」
「んなこたねえよ、俺達はこう見えて、優秀なんだ」
「そっかあ。うん、優秀そうには見えてたよ」
「だろ」
「あはは」
「お前、結構よく笑うのな」
「え?そうかな」
「良かったな」
「へ?」
「もう馴染んでんだろ、2日目なのに」
「ああ…へへ、ありがと」


シリウスは…最初会ったときに、「初めまして」って挨拶してくれた時から思っていたんだけど、わたしを余り、’’として扱わない。’’の代わりにリーマスにあんなに好かれてるのにこんなこと言って贅沢なんだけど、その空気はすごく自然で嬉しい。多分、無意識なんだろうなって思うんだけど。’’とはあんまり面識がなかったのかもな。


「…ありがとう、シリウス」
「ん?何だよ」
「ええと…変身術教えてくれて」
「あー。いいって。何でも俺らに聞けよ」
「うん」
「特にリーマスにな」
「えへへ」


わたしは目を伏せて笑って、肩をすくめた。悲しくなんてないんだけど、いま心のどこかに、きっとちいさな氷が刺さっている。けど、その周りにはとても暖かなものを手に入れていけるだろう。そう、思った。