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「リリーは、ジェームズの恋人なの?」 わたしがふと思いだしたかのようにそう言ったのは、私と彼らがちょうど一回ずつチェスをやって(ちなみに全敗でちょっと悔しい。)、シリウスとジェームズが真剣勝負してシリウスのキングがジェームズのクイーンに殴り壊されるのを眺めて(女は怖いぜ、とシリウスが言った。なんかたぶん違う意味だと思う。)、それから勝ったジェームズが今日は調子がすごく良いらしいリーマスにあっさり負けたときだった。シリウスとリーマスはわたしの発言を聞くと即座に噴き出して、ジェームズはそんな2人に、失礼だな!とけらけら笑いながら言ってから、楽しそうにわたしを見た。 「そう思うかい、?」 「え、そうだねえ…」 「ちょ、この子言い淀んだ!」 「え、違う違う!いまのは、「そうだね」がちょっと間延びしちゃっただけ!」 「そうなの?」 「嘘だけどね」 「こら、!」 ジェームズはそう言いながらも楽しそうだった。ジェームズがリリーのことを好きなのはもう、今日初めて会った私から見ても丸わかりだった(ていうかこのひと、チェスしながらもリリーがどうのこうのって言ってた。)。けれどリリーは、なんかちょっと、うん、普通だった気がするし。わたしの予想通りにジェームズは言う。 「残念ながら、まだ違うのさ…ま・だ!だけどまあ時間の問題☆」 「去年も同じこと言ってただろ」 「たぶん永遠に言ってると僕は思うよ」 「ふっ、2人とも何でそんなに夢がないんだい!?」 「夢なのかよ」 「現実性はないんだね」 「リリーは夢のように美しいからね」 「…おいジェームズ、話の流れ聞いてたか?」 「病院行ってきなよ、ジェームズ」 何この噛み合っていないようで嫌ぁな感じに噛み合った会話!わたしが恐れおののいているとジェームズがわたしを見て、あ、いつものことだから!と晴れやかに言った。いいのかそれで。いいのかそれで!…とにかく本人は別に気にした様子もなくちらりと談話室の壁にかかっている時計を見上げて、それにしてもリリーは遅いな、と不満げに呟いた。リーマスが頷く。 「まあ、それなりに時間かかるでしょ、あの人しつこそうだし」 「ああ…ってリーマスそれ何の話…?」 「え?だからレイブンクローのステファンの話だけど」 「いつも、俺ってばモテすぎて困っちゃうぜって顔してる、あいつ?」 「そう。人呼んでレイブンクローのシリウス」 「って俺!?」 シリウスがさっきと同じように良い感じのリアクションをして、リーマスはシリウスの方を向いて微笑みながら、ごめんね、そう呼んでいるのは僕とジェームズだけかもしれない、と言った。「人呼んで」のところだけ否定してるみたいだけど別にそこは大きな問題じゃないと思う。 「俺はそんな顔してねえよ…」 「そんなことはどうでもよくて!何であいつがリリーを呼び出しなんて…!」 「そうだね、ほんっとどうでもいい。あと呼び出しの理由は君の想像どおりだよ、ジェームズ」 「なあリーマス、前半のセリフはいらなくないか?」 「なっ…!まさか人気のないところでリリーを思う存分隠し撮りする気なのか!?」 「……ジェームズ、君の想像は僕の想像をはるかに超えてたから、さっきのは撤回」 「お前ほんとに変態じゃねえのか?」 「うるさいな!顔面セクハラなシリウスよりマシじゃないか」 「それは…まあね」 「まあね!?」 「あはは」 彼らのやり取りに思わず笑い声が洩れる。3人ともぴたりと黙ってこちらを見つめた。そんなにわたしが笑うのは、おかしかっただろうか?(誰でも笑うと思うけど。)わたしはちょっと気まずくなって、慌てて目の前で手を何度も振りながら弁解しようとする。 「あ、ごめんごめん、なんかちょっと面白くて…」 「そっか、それはよかった。が笑ってくれると、僕はすごく嬉しいよ」 リーマスはその言葉通り、すごく嬉しそうに微笑んだ。そのうしろでジェームズが、僕たちも嬉しいのにリーマスはそんなことそっちのけだな!とすごく楽しそうに言っていた。何がそんなに楽しいのかよく分からない。でもなんだかわたしも楽しくて、嬉しい。わたしは微笑んで、ありがとう、と言った。それから、さっきジェームズはふざけて変なことを言っていたけど、リーマスの言い方から(普通の人が)想像するのはもっと普通の告白めいたものだと思って聞いてみる。 「そのステファンさんは、リリーが好きなの?」 「うーん…あの人は女性全般が好きなんじゃないかな」 「ちょ、リーマス!何をそんなに落ち着いているんだい!?リリーの危機なのに!」 「いや別に危機じゃねえだろ」 「女性全般って…」 「ま、平たく言うと女好きなんだよね、ステファンって」 「そっそんなケダモノにリリーがついていっただなんて…!危険すぎる!」 「正直、危険度数で言うとお前がぶっちぎりで勝ってるぞ」 「だから行きたくないって言ってたのかな」 「うん、たぶんね。かといって断れないくらいの軽い話だったんじゃないかな」 「っていうかなんでリーマスはそんなこと知ってるんだい?」 「昨日リリーに聞いたらしいぜ。ま、ステファンが最近リリー狙いなのは周知の事実だけどな」 「ふうん、ジェームズも大変だね。リリーもてそうだもんね」 「そうだね。僕はの方が可愛いと思うけど」 「ああ…!なんでリーマスにそんな相談をして僕には言ってくれないんだ…!」 「そりゃあ、無駄にうるさいからだろ」 「(…あああなんかさっきさりげにすごいこと言われた気がする…!けどそれはわたしじゃないわたしじゃない…!)」 ひとりで動揺するわたしを尻目にジェームズは今にも飛び出して行きそうな勢いだった。リーマスとシリウスがそれをなだめようとするけれどあんまり聞きそうにない。そんなに、心配なんだな。きっとジェームズはリリーのことが大好きなんだろう。 リーマスが「さん」を好きなのと、ちょうど、同じように。(ちくり) ちょっと、胸が痛い気がした。なんだろう、この感じ。…やっぱり自分がいつまでも自分として見てもらえないことは嫌なんだろうな。でも、なんだかこんなに打ち解けてしまったとはいえ彼らにはまだ今日会ったばかりなんだから、そのうちわたしがさんじゃないときっと分かってくれる…あれ?でもでも。 そしたら、リーマスはわたしにこんなに優しくしてくれないのかな? そうだったら、どうしよう。それはいやだな。わたしはどうしたらいいんだろう。なんだか急に不安になって黙り込んでいると、リーマスが身をかがめて心配そうに私の顔を覗き込んだ。(そう、こんな風に優しくしてくれるのは、わたしが彼のさんだと思っているから?それだけ?) 「どうしたの、?ごめんね、ジェームズがうるさくて」 「僕のせい!?ごっ、ごめん、」 「え!?ちがうちがう、ぜんぜんへーき」 わたしは笑って見せたけれど、なんだか心の奥底に鉛でも詰まってしまったかのように気分が重かった。でもちょっと頭を振って考えて、思いなおす。似ているという理由でも何であろうとも、こんな風に友達になってもらえるのはとても良いことなのに、勝手に不安がるなんてぜいたくというものだ。それにリーマスたちは、わたしがさんとは別人と分かったからって急に冷たくなるような、そんな人たちじゃない。そう思うと少し楽になった気がした。 「ごめんね、ちょっと考えごとしてて」 「そう?…何かあったら何でも言ってね、」 「うん」 わたしは今度こそ笑って見せた。リーマスは明らかにほっとした様子で、不満げに黙っているジェームズを振り返る。リーマスの視線を受けて、ジェームズは口を尖らせた。 「ちょっと様子を見に行くくらい、良いじゃないか」 「まあね。でもステファンにもリリーにもプライバシーってものがあるでしょ」 「つうかジェームズ、お前あいつらがどこにいるのか知ってんのか?」 「あ!」 「あはは」 「そういうとこでバカだよな」 「そっか…リーマス、君は知ってるのかい?」 「うん」 「そんなに気になるのか?」 「もちろん!…っていうかいくらなんでも遅いし」 「そうだね、それは僕も思う」 「まあ、そうだな」 「だから、ちょっと様子を見に行かないかい?大丈夫!普通にしてたらぶち壊したりしないから!」 「まあ、僕は別にいいと思うけどね、ぶち壊しても」 「俺も。でもリリーが嫌がるぜ」 「何だって!?リリーはあんなシリウス紛いのやつがいいのか!?」 「まさか。シリウス紛いのやつなんてその時点で無理だよ」 「…なんか、お前らさ、なんか…なんていうか言い方ってもんがあるだろ…?」 「じゃ、良いじゃないか邪魔しても」 「うーん、でもいつもの僕らのやり方でふざけて邪魔したら、リリーも巻き添え食らうかもしれないからね」 「普通に話してるだけだったら、それは嫌だろ」 「…じゃ、まあ、様子見だけでも行こう!」 「ま、いっか。ちょっと遅いしね」 「そーだな。でもジェームズ、リリーに嫌われない程度にしとけよ?」 「大丈夫大丈夫!」 さっきとはうってかわって上機嫌なジェームズを仕方なさそうな目で眺めてから、リーマスはわたしを振り向いた。わたしは彼らの話を聞きながら、勝負を全て終えて暇そうにしているチェスセットを片づけているところだった。 「あ、ごめんね。ありがと」 「ううん。結局行くことにしたの?」 「うん。も来るよね」 「邪魔じゃなかったら、行きたいな」 「もちろん、おいで」 にこりと笑ったリーマスに手招きされて、わたしは彼らと談話室の外へ出て行った。自分も場所を知っているらしいシリウスが先頭を歩いて、ジェームズがきょろきょろと周りを見ながら(たぶん探してるんだろうな)その次を歩いて、リーマスとわたしはそのうしろからついて行った。 しばらく行くと裏口のような小さな扉があって、そこから出るとどうやら校舎の裏手に回れるみたいだった。わたしにはわけのわからない道順を当たり前に通っているみんなを見て、自分のこれからの生活にものすごく不安を感じた。難しい顔をしているわたしを見て笑ったリーマスに、わたし今現在進行形で迷ってるの!と言ったところでリリーと男の人(名前忘れちゃった…レイブンクローのシリウス、っていうのしか覚えてないや)の声が聞こえた。わたしたちはそこで立ち止まる。 「だから、もういい加減に帰りたいんだけど…」 「次会う約束、したら帰っていいぜ」 「私はこういう風にお話をしようって誘うのをやめてくれって話をしに来たのに」 「その考え、今日俺と話して改まらねえの?」 「いいえ、全然」 「フーン…ま、つれないとこも良いけど」 「…はあ」 「簡単に手に入ったら詰まんねえからな」 「つまらない、とか女性に対して言わないで欲しいわね」 「はは、そうカリカリすんなって」 そのまま、壁の陰に隠れてそっと2人の様子を伺った。こうしているとどう考えても悪いのも怪しいのもこっちだ。まあ別に、リリーがあの人を好きということはないみたいだったから問題ないと思うけど。レイブンクローのシリウス(名前ほんとなんだっけ…)は明るい茶髪でシリウスとは一見ちょっと印象が違ったけれど、顔立ちは切れ長の瞳と通った鼻筋があからさまに美形で、少し似ている気がした。あとなんかあの、自信満々な雰囲気も似てるかも。 「……あーうん、確かに俺と若干かぶってる感は、あるな」 「僕には同じに見えるよ」 「僕も…っつーかあいつ…!よくもリリーにあんなに近づいて…!」 「うーん…顔と雰囲気はシリウスに似てるね」 「それが似てればものすごい似てるだろ…!ていうか同じ…!?ああなんかすげえへこむ…!」 「まあシリウスのがもててるからいいでしょ」 「リリーから離れろ偽シリウス!あああああ!あーーーーむかつく!!」 「あ、ごめんねシリウス…」 「いや、良いんだ。そうだよな、俺のが上だしな!」 「…ほんとすぐ調子乗るよねこの犬!」 「あ、が優しくしたせいでシリウスがキレられてる」 「えーそれ困るな…!」 「え、ちょ、俺が一番困る…!」 「別にいいでしょ(フン)」 「あははリーマスが拗ねた!あっははははは!」 「あははジェームズ笑いすぎ」 「ちょ、リーマス何気に俺に杖向けない!」 …まあ、わたしたちの騒がしさで隠れられるはずもなくて、リリーともうひとりはすぐにこっちに気付いて驚いた顔をした。その瞬間にびくっとたのはわたしだけで、ジェームズとシリウスとリーマスは平然としている。ジェームズはにこにこと笑って、遅いじゃないかリリー!と言った。リリーはため息をつく。 「…友・達・が、迎えに来たみたいだから私もう行くわね」 「リリー、なんで友達ってとこをそんなに強調するんだい…!」 「諦めろジェームズ」 リリーはさっさとわたしたちのところへ来て、わたしを見てにこりと微笑んだ。わたしもリリーに微笑み返す。レイブンクローの(以下略)はつまらなさそうな顔でこっちを見ていた。わたしはそれを見返してふと目が合う。彼は少し首をかしげた。 「あれ?アンタ、誰だっけ?」 「へ?(わたし?あ、そっか初めて見る顔なのか)あ、転入生です」 「フーン、名前なに?」 「あ、わたしは」 わたしが自分の名前を答えかけたところで目の前が急に暗くなった。驚いて目をしばたたかせると、リーマスがわたしの目の前に手をかざしていることが分かった。でも意味が分からない。わたしは、不機嫌そうにレイブン(以下略)を睨んでいるリーマスの横顔を見上げる。 「リーマス?」 「君には関係ないから、ステファン」 「へえ」 「関係ない…?(寮違うから?そんなに寮同士って仲悪いのかな)」 「ね。もう行こう」 「オイオイなんだよリーマス、珍しく余裕ねえなぁ」 「どうかしたの?」 「ううん、別に…もうすぐ夕食の時間だし、急いだ方が良いからね」 そう言ってリーマスはいつもと同じようにわたしに微笑みかけた。わたしも頷く。ステファンさん(あーそういえばそういう名前だった!)はけらけら笑ってからどこかへ行ってしまった。なんていうか、シリウスよりずうっと、性格悪そうだなあ。みんなはもう直接食堂に向かった方が良いという結論に至ったらしくて、わたしたちはさっきとは違う道を通って食堂へ向かった。(これは確実に一人じゃ迷うー…!)歩きながらリーマスが突然わたしの名前を呼ぶ。 「!」 「はい!(何!?)」 「さっきのやつは、もうほんと、あれだから。駄目だから。近寄ったら死ぬと思って」 「えええ!?(なにこれすごい脅されてる!?)」 「あ、僕が何かするわけじゃないよ?にはそんなことしないよするならあっちに…じゃなくて、とにかくさっきのやつは無視で」 「え?あ、うん…」 「ああもうなんかもうほんと嫌だ」 「りっ、リーマス?(どうしたのかな)」 「あー…いや、ごめんね、変なこと言って…僕、何言ってるんだろうね」 「え、や、別にわたしは気にしてないよ」 「本当に?それなら良かった…さっきのはさ、ただのお願いだから、僕の」 「うーん、なんか悪そうだったもんね、あのひと」 「ん、面白いとこもあるんだけど、ちょっとね」 「うん」 「ま…僕が近寄らせなければ平気だよね」 「え、何か言った?」 「ううん、なんでもないよ?」 リーマスは相変わらずとても優しく微笑んだから、わたしには振り向いたリリーの、わたしのことを心配しているような微妙な目線の意味は、よく分からなかった。(それよりもなんか、おなかすいたな!) |