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「?」 ルーピンさんの瞳に気圧されていたわたしは、二度目の呼びかけでようやく我に返った。ルーピンさんはまだわたしをじっと見つめている。なんていうか、自分で言うのもなんだけど、かなりの熱視線。 「…え、あっと、そうです」 「……?」 「は、はい?(どうしようこのひとなんか変ー!)」 ルーピンさんはわたしをもう一度まじまじと眺めて、それから視線をゆっくりと下げてわたしの足元を見た。ホグワーツに入学するからと両親が買ってくれたまだぴかぴかの黒い皮靴。わたしもつられて足元を見て、なんか本当に意味が分からなくなってきた。いまさらだけど。 「うわあ立ってる!?」 「えええ!?(なにこのひとー!?)」 「だ、ちょ、え、何、どうしたの!」 「どうもしませんー!(てゆかなんで呼び捨てなの!いまさらだけどさ!)」 「だだだだって、」 「????る、ルーピンさん?」 「……ルーピン、さん?」 ルーピンさんは目を見開いて再び固まってしまった。ものすごく機嫌を損ねた感じがする。よく分かんないけどそんな感じがする。わたしは混乱しながらどうにかこうにか、あ、ごめんね、と小さな声で言った。ルーピンさんはすごく困ったような顔をして、、とまた呼ぶ。 「なに?」 そう言っただけだった。なのにルーピンさんはまるで、まるでなにか宝物でも見つめるかのようなすごくすごく優しい目をして、(…えええどう、しよう)それからわたしをきつく抱きしめた。わたしはぽかんとして、向こうの方でやっぱりぽかんとしているリリーを見た。息が苦しい。 「………」 「………」 「………(はっ!)」 「………」 「きゃあああリリー!ルーピンさん変じゃない!?いつもこうなの!?こっ、これって普通!?」 ものすごく放心状態だったらしいリリーはわたしの声に我にかえって大慌てでこっちにやってきて、リーマス!?とものすごく素っ頓狂な声をあげた。あとの2人はなんだかとてもびっくりしたような顔で、でもリリーほど焦っていなくてルーピンさんを止めてくれる素振りもなくて、わたしはすごく混乱してきた。(どういうキャラなんだルーピンさん!) 「ああもう、リーマスってば!」 リリーはそう言うとルーピンさんの手をわたしから解こうとしたが、ルーピンさんはすごく不機嫌そうな顔をして、やめてよリリー、と言った。…えーなんだそれ…えっと、わたしとしてはこんな美人な人に抱きしめられてるなんてお得なのかもしれないけど、でもやっぱ、ちょっと、いやすごく、困るんだけどな。 「る、ルーピンさん…あの、苦しいので離してください」 「あっ、ごめん」 わたしの言葉に、ルーピンさんはあっさりと手を離し、わたしの顔を覗き込んで、大丈夫?ごめんね、とものすごく優しくて甘い声で言った。どうしようなんかすごく照れる。 「大丈夫ですけど…」 「、なんで僕のことをルーピンさんなんて呼ぶの?」 「えええ?だって初対面だし…」 不機嫌そうに眉をひそめるルーピンさんにわたしは言った。ルーピンさんはわたしの顔を覗き込んだままで、さっきのわたしよりもさらに呆然とした顔をした。しょ、初対面…!?とかなんとか小さな声で呟いている。わたしはその様子にひどく慌てた。 「な、なんかすいません…!たぶん人違いですよ!」 「そんなわけないよ」 「え、だって、わたしルーピンさんに会ったこと無いです」 「あるよ」 「…(どこから来るのこの自信!?)」 「…そうか!、きみ記憶喪失なんだよ…!どうしよう…!」 「え、えええ?わ、わたしは別にそんな(なにこれ!?)」 「絶対そうだよ。僕がを見間違えるはずないからね」 「えええ…?」 「僕がを分からないはず、ないから」 「……」 彼はどこか遠くを見るような顔をしてそう言った。何かをすごく懐かしく思い出している顔。何かとてもとても大切なものが、彼の見ているその過去にあったのだろう。きっとそれは彼をこんな風に駆り立ててしまうほど強い感情で、全く状況の分からないわたしにすら、彼がその何かをどれだけ大切に思っているかが分かった。それはたぶん彼の言うという人に関係があるのだろう。もしくはその人自身。そう思うと、その人が少しうらやましいような気もした。 「うーんと、本当に人違いだと思います。だって、そのさんならあなたのことが分からないはずないじゃないですか」 「…そうだと良かったんだけど、そうじゃなくても文句なんて無いよ」 「だから、人違いですってば…」 どうにも困ってしまって疲れた声でそう言うと、ルーピンさんはすごく悲しそうな顔をした。わたしは焦るけれど、人違いなのは確かなのだから、分かってもらった方がいいと思う。その人がそれほどに大切なら余計に。 「…」 「わたしの名前はですけど、ルーピンさんのとは違いますよ」 「そんなこと、ないけど」 「顔も似てるんですか?」 「っていうか、全部が、」 「…うー、でも、違うんです…」 ルーピンさんはそれでも納得いかない顔だった。不満げ、というか。なんだか、監督生っていうからもっとしっかりした人を想像してたんだけど、意外に子供っぽい人なんだなあ。だいぶ落ち着いてきたわたしがそんな感想をぼんやりと描いていると、リリーがわたしの手を引っ張る。ちょっとルーピンさんから遠ざかる。 「リーマス、あなたすごく変よ。いったいどうしたの?」 「に関しては、確かに冷静さを失いがちかもね、僕」 「初対面なのに…あなたらしくもないわ」 「初対面じゃないんだけど…信じてもらえないよね」 「だって、は…」 リリーはそこまで言うと、ちょっとだけ迷ったようにわたしの方を見た。別に全然いいんだけどな。気にしてくれているのは嬉しい。わたしはリリーの代わりに口を開いた。 「あ、わたしね、つい最近まで昏睡状態だったの」 「昏睡状態…?」 「そう。だからルーピンさんと知り合いなはずは…」 「そうだったんだ…!!」 「へ?」 「僕は、てっきり君はもう、死んでると思ってた」 「え…いえあの(勝手に殺さないで〜)」 「そっか…そっか!良かった!」 「う、うん、ありがと…(なんかやっぱ、変な人?)」 ルーピンさんはわたしの話を聞いても全く言い分を変えずに、むしろ若干テンションが上がってしまった。予想外の反応にわたしもリリーも首をかしげる。ルーピンさんはすごくうれしそうに微笑んで(それがもう、ただの嬉しそう、という表現では足りないくらい深く深く幸福そうな、顔で)、わたしの頭を少し撫でる。 「…(ちょ、いくつだと、思われているんだろう…!)」 「ちょっとリーマスってば!にべたべたしないで!シリウスじゃないんだから!」 「って俺!?」 意外にもとても大人しく話を聞いていたさっきのにぎやかな人たちのうち、黒いストレートヘアのものすごく端正な顔をした方の人が言った。なにそのイメージ…と不服そうにぶつぶつ呟いている彼の隣で、くしゃくしゃの髪で眼鏡をかけたこれもすごく整った顔の人が(うーんなにこの美人学校…)真剣な顔でわたしを見ていた。その人はルーピンさんに向って真剣な顔のままで呼びかける。 「リーマス、ちょっと来てくれよ」 「僕今取り込み中なんだけど」 「この期に及んでお前なぁ…」 「その子が、なんだろう?」 「うん」 「お前のその尋常じゃねえ様子からして、それは納得だ。今のお前はジェームズ並だ。俺は悲しい」 「ついに恋する僕の気持ちがわかったかいリーマス!」 「えっ…ジェームズと同類って、ちょっ…生理的に受け付けない…」 「そーだろ。だからもうちょい紳士的にしろよ」 「シリウスと同意見なのだけれど、とりあえずまず泣いていいかい?」 「だめ」 ルーピンさんは笑顔でそう言い放つと、わたしにもう一度向きなおった。びっくりさせてごめんね、とすごく優しい微笑みと優しい声で言う。うーん…普通にしてくれればすごく、素敵な人なんだけど。 「ちょっと僕、柄にもなく舞い上がっちゃったよ」 「いえいえ!」 「、敬語はやめてよ」 「あ、うん」 「…うわあ」 「どしたの?」 「だ…!本当にすごい!本当に!今なら神様にも感謝できる」 「…えっと…(なにこのテンション)」 「…僕のことはリーマスって呼んでくれないかな」 「わかった。ありがとう、リーマス」 「……うわあ…」 「リーマス?」 「なんか、本当にだ、完璧に」 「うーん、と」 なんだかすごく複雑な心境だった。わたしは彼の””ではないのに。わたしはわたしなのに。けれどあまりにも幸せそうな彼…リーマスの顔を見ているとどうしてかそう言えなかった。わたしは辛くなってちょっと視線をそらす。リリーが心配そうな顔をしていた。 「ごめんなさいね、…リーマスは普段はこんな風じゃないんだけど」 「だって、がいなかったから」 「…(ううう…なんか恥ずかしいよ〜)」 「もう、リーマスったら!を困らせないで」 「ああ…そうだ、ね。ごめんね」 「あ、うん、大丈夫だよ」 わたしがちょっと戸惑いながらもそう言うと、リーマスはにこにこと笑って、ありがとう、とうっとりした声で呟いた。…どうしよう、このひと…。わたしの思いをくみ取ってくれたかのように、リリーが呆れたため息をついてリーマスに言う。 「リーマス、いい加減にしてよ。わたしはこれからちょっと呼ばれているから、の案内をしてほしかったのに!そんな調子じゃとても…」 「やるやるやる」 「だめ」 「リリー、早く言った方が良いんじゃない?」 「…別に行きたくないけど、仕方ないの」 「仕方ないから、ここは僕に任せなよ」 「だめよ。、ちょっと申し訳ないんだけど部屋にいてもらえるかしら…」 「駄目だよ!僕に任せてくれるよね、リリー?」 「リーマス、そんな怖い顔しないで」 「僕としては満面の笑みだけど」 「そういうときのあなたの笑みは良くないの」 「君が何を言っても案内するよ」 「に嫌な思いをさせるのは私が嫌よ!絶対だめだわ」 「絶対、するよ」 「がさっきあんなことをされて嫌がってないと思ってるの?」 「…それは、悪かったと思う。反省してるよ。普通にするから」 「信用できないわ!今日のリーマスはおかしいもの」 「ま、それはそうだね」 「ほら!何を考えているのか分からないわ…あなたがそんな一目ぼれをするなんて…」 「一目ぼれじゃないよ」 「こういうのを世間では一目ぼれって言うのよ!」 「違う。僕はいたって真剣だね」 「そういうことを目の前で言われるとが困るじゃない…」 「そ、っか…ごめんね」 リーマスはわたしを覗き込んで申し訳なさそうな顔をする。わたしはリーマスとリリーの喧嘩腰とも言えるくらいのやりとりにひやひやしていたから、複雑な心境になりながらも反射的に首を振った。 「大丈夫大丈夫!気にしてないから!リリー、わたしは平気だよ」 「…無理しないでいいのよ…気にしてないはずないじゃない」 「リリー。余計なこと言わないでくれない?」 「本当に平気だよ。案内してもらうと嬉しいよ」 「でも…」 「ほらほら、もそう言ってることだし!」 嬉しそうなリーマスをすこし睨みつけると、リリーはわたしをもう一度申し訳なさそうに見つめて、少しでも嫌なことがあったらすぐに逃げてね、となんだか妙な忠告をしてしぶしぶ立ち去って行った。わたしは笑顔で、大丈夫!と答えたが、正直リリーがいなくなってしまうと、ちょっとつらい。 「り、リーマス。案内、ほんとにするの?」 「とは色んなとこに行ったから必要ない気もするけどね」 「だから、わたしはそのじゃないのに…」 「…うーん、じゃ、一応いこっか」 「リーマスが面倒だったら、わたしは部屋に戻っても全然平気だよ!片付けもあるし」 「の選択肢は、僕と話をするか、学校の案内をされるか、このふたつだけ」 「…そ、そうなんだ…(意外に、俺様?)」 「どっちが良い?」 「ん、それじゃあ、案内してほしいかな」 「うん、じゃ、行こう」 リーマスはあとの2人に、ごめんちょっとこの後の予定には参加できないから2人で話し合っててよ、と言って、あとの2人はなにやら神妙な顔で頷いた。それからリーマスはわたしの手を引いて談話室を出ようとする。 「あ、じゃあ、またね!」 わたしが振り返ってふたりにそう言うと、ふたりとも何だか驚いた顔をして、それからにこりと、やっぱりどこか嬉しそうに笑った。 |