8th Sign
You're embracing me.(きみは僕をつつんでくれます)







まだのぼっていないけれど、満月の夜。リーマスはローブをはおり、静かに冷たい床に足を滑らせた。慣れたしぐさで音をたてずにドアまでそっと歩き、ドアノブを回す。廊下に出ると月のない夜空に星がキラキラと光っている。リーマスはそれを一瞥すると、急いで階段を下りた。窓の方に目を向けると、がこっちを向いて立っていた。(なんだって、こんなときに、こんな。)リーマスは驚いたが、やっとの思いでひきつった笑みを浮かべる。


…起きて、たんだね」
「うん、リーマスが来るような気がして」
「僕が?」
「うん」


彼女はうなずくと、リーマスのところまでやってきた。それから彼の瞳をじっと覗き込み、元気がないね、と心配そうな声で言う。


「そう、かな」
「そうだよ…ジェームズとシリウスも、心配してるよ」
「あはは、ありがとう」
「…リーマス」
「…なに?」
「わたし、あなたに会えて本当に良かった」


突然、何言ってるの、とリーマスが狼狽しきった声で言うと、は笑って、だってそう思うの、とあいかわらず楽しそうに言った。(でもぼくが、きみをこわしたんだよ。)リーマスは首を振り、硬い声で返す。


「良くなかった」
「ひどいなあ…リーマスはわたしに会いたくなかったの?」
「それは、違うよ!」


拗ねたように顔をしかめるに、リーマスは大慌てで否定した。たとえそれが罪深い過去のせいだと誰になじられても、それでも彼女に会えたことは幸せだ。彼女が自分に微笑みかけてくれるだけで、満ち足りた。そう考えるとどこまでいっても、自分は彼女から奪ってばかりだ。その上彼女がそれに気付かないのをいいことにして、いつまでもこのままでいたいだなんて、自分勝手なことを考えている。リーマスはそう考えて暗い顔をしていたが、はうれしそうに明るい声で返した。


「よかった」
「…でも、でも…僕は」
「なに?」
「…」
「リーマス?」
「…僕は、自分勝手で、最低だ。言わなくちゃいけないことがあるのに、怖くて言えない」
「…最低じゃないよ」
「ううん、違うんだ、
「違わないよ」


ははっきりと首を振った。リーマスは最低なんかじゃないよ、とリーマスの眼を覗き込みながらゆっくりと言う。


「わたしのことを大切に思ってくれるから、内緒なんだよ」
「でも」
「ジェームズとシリウスにも、秘密が、ある?」
「…あるよ」
「それは2人が大切すぎて、言えないんでしょう」
「…そう、なのかな」
「そうだよ。それはしあわせなことだよ。最低なんかじゃないよ」


がそう言って微笑むから、リーマスは何も言えなくなって口をつぐんだ。自分のことをそんな風にすべて肯定されたことなんて、なかったと思う。リーマスはいつも自分のことをどことなくうしろめたく思っていて、(だってぼくは、人狼だ。)心のどこかで否定的だったのに。彼女はそれを全部肯定している。(どうして?きみはどうしてぼくをすくおうとするんだろう)


、なんで」


リーマスがそう言いかけた時、誰かが合言葉をささやく声がして談話室の扉が開き、マダム・ポンフリーが焦った顔で入ってきた。リーマスは驚いて息をのんだが、は驚かずにそれを黙って見つめていた。


「ルーピン!急がないと、月が昇ってしまいますよ」
「ま、マダム…!」
「ほら、早く早く!」


マダムにせきたてられてリーマスは空を見上げ、焦って扉へと進む。扉を抜ける前に振り返ると、がいつもと同じ場所に立って、いつもと同じようにゆるく微笑んでいた。とても愛おしいものを見つめる顔だった。それから声に出さずに、またねリーマス、と口を動かした。


どうして きみはぼくを そんなにもすくうのだろう






   

(070803)