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の声が聞こえるようになってから、ジェームズとシリウスもとよく話すようになった。談話室に誰もいないときとか、夜中にみんなで抜け出すときとか(は見張りを自分から進んでやるまでになっていた。教育の賜物だね!とジェームズが喜んでいた。何の教育だ。)あとは部屋にを招待したり、とか色々だ。 それから彼女は昼間に図書館によく行くようになっていた。ひとりではページがめくれないので、たいていはリーマスが一緒に行って、彼女が読みたがる本を出してやってページをめくった。そんなときいつも彼女はひどく申し訳なさそうにしていたが、リーマスが気にしなくていいよと何度も言うと、ジェームズやシリウスにもたまにお願いするようになっていた。(彼らの方から、暇で死にそうだよ、と言いだすこともあった。) リーマスは、彼女がジェームズとシリウスにとられたような気がして、少し歯がゆい思いをすることもあったけれど、が前よりも楽しそうで、それでいいと思った。それに夜中にゆっくり彼女を見て話すのは相変わらず自分だけの特権だった。ジェームズとシリウスはもしかしたら気を使ったのかもしれない、とリーマスは思っていた。 が来て困ったのは、月に一度だけだった。月に一度、叫びの屋敷に行くために夜中に抜け出さなくてはならなくて、そしてその時にに気付かれないように(彼女はたいていは眠っていた。)談話室を横切るのは心苦しかった。けれどそんなことよりも彼女が自分の前に現われてくれた喜びは大きくて、だから、その理由なんて考えたくなかった。いつまでもいてくれればそれでいいのにと、自分勝手な考えをもてあそんでいた。 何にも、気づきたくはなかった。 −−−−− (君が振り返ったらどんな顔をしているのか、僕は知ってる。) (けれどそれだけは、知りたくないんだ。) (振り返らないで、お願い。) (振り返らないで。) 「リーマス、リーマスー、起っきろー」 「うわあ!」 「うおっ、何だよ」 「どうしたんだい?」 叫び声をあげて飛び起きると、ジェームズとシリウスが心配そうにのぞきこんでいた。リーマスはしばらく呆然とした顔でそれを見つめる。ほんとに、大丈夫か?というシリウスの声で我にかえって、ごめん、と掠れた声で言った。ジェームズがほっとしたように息を吐いて、肩をすくめた。 「リーマスってばあんまりうなされてるから、思わず起こしちゃったよ」 「起こしたら起こしたでこれだしな」 「あはは…」 「顔色が悪いよ。大丈夫かい?」 「また寝不足なのか?」 「ううん、何でもないよ」 悪い夢を、見ていただけだよ、とリーマスが言うと2人はなんでもないことのように笑った。リーマスも笑い返す。そう、ただの夢。きっともうすぐ満月だから気持ちが不安定になっていて、そのせいでいやな夢を立て続けに見てしまうんだろう。そうリーマスは思った。正確に言うと、思おうとしていた。 けれど悪夢はどんどん彼の首を締めあげて、彼は見るからに元気をなくしてしまっていた。ジェームズとシリウスとに心配をされても、余計に落ち込んでしまって申し訳なくなるばかりだった。けれど絶対に絶対にこれだけは、誰にも言うことはできなかった。 どうか、このまま一緒にいさせてほしい。(アングレカムの花言葉。) −−−−− 森の中を、走っている。(ここは、どこだろう。)足の裏が冷たい。雪が降る。(怖い。)真っ暗なのに何もかもがよく見える。体が軽い。力がみなぎる。(怖…こわ、壊したい。)ただ何も考えずに闇雲に走る。(壊したい。)何かないかな、なにか。(こわしたい。) 月がきれいに雪を照らす。前に何かが見える。何かが振り返って、叫んで、走っていく。(壊さなきゃ。)追いかける。すぐに距離が縮まる。これは何だ?(こわそう。)振り返らない。振り返らない。(こわそう…?ちがう。)声を上げる。振り返ろうとする、なにかが(やめてくれ。)振り返る。恐怖の表情。(やめて。) (振り返った君の顔を、ぼくは知ってる。) −−−−− 目が覚めた。リーマスは今度は叫ばずに、ゆっくりと起き上がる。全身ががたがたと震えて、いやな汗をかいている。窓の外を見るとまだ月は昇っていなかったけれど、そろそろ行かなくてはならない。月が昇ってしまってからでは、彼にとっては何もかもが遅すぎる。 リーマスは月のない空を見つめながら、何も知りたくないよ、と小さな声で祈りを呟く。(けれど彼女は、振り返った。) |