5th Sign
Am I relieving you?(ぼくは君をすくえていますか)






リーマスは、ジェームズとシリウスにこれまでのことを説明した。これまでのことと言っても大して説明は多くなくて、ただ、自分にだけ見えるというゴーストがいるんだ、ということだけが重要で、それから不思議なことだった。ジェームズとシリウスはひどく悩んだ表情になる。


「えー………っと」
「どうも、俺たちは、言葉に詰まっているな」
「うー………んと」
「っていうかお前鬱陶しいんだけど、ジェームズ」
「いや!僕は信じているよリーマス!たとえシリウスが信じなくても!」
「なっ…俺だって信じる!バカ眼鏡!」
「ははーん、僕は主席だからバカじゃないさ」
「じゃあ、ただの眼鏡」
「シリウス、君にとって僕のキャラ立ちは眼鏡しかないのかい?」
「キャラ立ちとか言ってんのがすでに痛ぇよ」


話が脱線してきたので、リーマスはの方を向いて、ごめんね、と苦笑しながら言った。は大きく首を振って、とても楽しいよ、と言い返す。リーマスはそれを聞いて微笑んだ。ジェームズはリーマスの様子を見て不思議そうな顔をしながらも、なんかほんと、そう言われたら納得だなあ、と頷いて、空中に手を差し出す。


「やあ、!僕はリーマスの親友の、ジェームズです!よろしく!」


は驚いた顔で反射的に手を差し出し、(でもジェームズが出してる位置が高すぎて若干背伸びしたような格好になってる。)こちらこそ!と言った。ジェームズはリーマスを振り向いて、ねえねえはどうしてるんだい?とたずねた。リーマスは笑いながら答える。


はね、背伸びしてジェームズと握手を試みつつ、こちらこそ!って言ったよ」
「へえ…あ、高すぎた?高すぎた?ごめんなー
「ジェームズ…お前の適応能力の高さには完敗だな」


シリウスはそうぼやいてから、お、俺もよろしく、と恥ずかしそうに言った。きっと、よく分からないけれど信じなくてはいけない、と思ってくれているのだろう。ジェームズもシリウスも、自分のことを信じなくてはいけないと、思ってくれているのだ。そう思うと、ひどくくすぐったい気分になった。


「ジェームズ、シリウス、ありがとう」
「いや…悪かったな、とり憑かれてるとか、言って」
ー、ー、馬鹿リーマスにもっとちゃんと睡眠とるように言って!」


は笑って、うんわかった、と嬉しそうにジェームズに言い返した。聞こえていなくても、彼女の世界にこの2人が加わったのだろうと、リーマスは思った。かつて自分にしてくれたのと同じように、彼らは孤独をふきとばしてくれるのだと、思う。


しばらくはジェームズとシリウスとの間の通訳(というか、そのまま言ってるだけなんだけど。)をリーマスがすることでゆっくりと会話が成り立っていたが、ジェームズはだんだん不満そうに、なんかずるい、と言い出した。


「何がだよ」
「だってさあ、リーマスしか喋れないんだぞ?」
「うん、まあ…そうだね」
「ずるいとかそういう問題じゃねえだろ」
「だってさあー」
「そうだね、2人も話せたら、も楽しいのに」
「まあな」


シリウスはうなずくと、それに、と言いにくそうに続けた。


「悪いけど、俺はまだリーマスにとり憑いてるって心配を捨てきんねえ」
「でもはそんな、悪い子じゃないだろ」
「まあ…でもな、リーマスにしか見えないのは、おかしいだろ」
「うんうん、ずるいよなー!」
「だーから、ずるいとかじゃねえの。もしそれでじっさいリーマスに害があるようじゃ困るんだよ」
「そりゃそうだね」

ジェームズはシリウスの話にうなずいて、少し考え込んだ。2人が自分のことを真剣に心配しているのを見て照れくさくてを見ると、は考え込む2人を見ながらにこにこと微笑んでいた。自分のことを何か悪いものかも知れないと疑われているのにどうしてこんなに嬉しそうなのか、分からない。そう思っているとがリーマスの視線に気づき、微笑んで言った。


「本当に仲良しなんだね」
「…うん」
「なんだか嬉しいな」
「嬉しいの?」
「リーマスが幸せそうで、嬉しいな」


は本当に嬉しそうに笑った。(そんな風にいうきみにこそ、ぼくは幸せであってほしいんだ。)ジェームズが不思議そうな顔でリーマスを見つめ、なんだって?とたずねた。

が、ジェームズとシリウスが僕の心配をしてるのがうれしいんだってさ」
「…いやー照れるなー」
「疑って悪いな」
「いいって、さ」
は良い子だなー!」
「なんか俺が悪い奴みたいじゃねえかよ」
「そんなことないよ、ありがとう、シリウス」
「え、僕は僕は!?」
「ははん、うるせえよジェームズ」
「うん、ジェームズもね」


もう夜も遅いので寝た方がいいんじゃないか、とが言い(さっきのジェームズのお願いをちゃんと覚えているんだと思う。)リーマスはうなずいてそれをジェームズとシリウスに伝えた。シリウスは、そうだなー、と眠そうに答えたが、反対したのは当のジェームズだった。


「いやいや!そんな僕には、考えが!」






−−−−−





「あああ出る出るシリウス、もうちょいつめて」
「えっ限界おれもう限界…リーマスは?」
「無理。果てしなく無理だよ」
「あああついた!長かった!」
「お前は声がでけえっつの」


ジェームズの考えというのは、図書館でについて調べてみようということだった。それまで眠そうにしていたシリウスも夜中の学校を久しぶりに徘徊するということだけでいきなり元気になり、ジェームズの透明マントを使って3人で図書室まではるばるやってきたというわけだ。(それにしてもせまかった。そしてはそんな僕らを面白そうに見ていた。)


魔法でドアを開けて(いつも思うけれどこの学校はけっこうセキュリティが甘い。)(たぶん生徒にこういうこと、してほしいんだと僕は思ってる。)、透明マントを脱いだ。誰かが来たらもちろん怒られるだろうが、まあ図書室ならそこまで重い罰も受けないだろう、と3人してたかをくくっている。ジェームズはリーマスにたずねる。


ってどんなかんじなの?」
「どんな感じ…なんか僕には普通に見える」
「うーん、普通かあ」
「髪が黒くて、目も黒い女の子だよ」
「むー…ー、何を調べたらいいかなー」
「なんだろうねえ」


は首をかしげて、そうですねえ…と困った声で言って手近な本に手を当てる。当然つかめないので、すかすかと本の背表紙を通り抜ける自分の手を見ながら、そうですねえ…とまた途方に暮れた。


「ま、とりあえず適当に見てみようぜ」


とシリウスは言ってぐるぐると図書館を回り始める。たぶん普段あんまり図書館なんて来るタイプじゃないから珍しいんだろう。といっても3人ともここにくるのは、悪戯のためのなんらかの知識を探しに来る場合が一番多かった。リーマスもその辺にある本の背表紙を眺めながら少し歩く。振り向くとはものめずらしそうに本の山を眺めていた。


本棚に目を戻すと、面白い題名が目にとまった。『ゴーストを対象とする変身術およびゴーストを使った戦闘対策』。もう一度振り向いてを見る。彼女は華奢だし、何よりやさしいから戦闘対策には絶対にならないだろう。けれど一応本を開いてみた。グロテスクな挿絵の描かれた(なんでこう無駄にグロテスクなんだろうこういう本は。)カビ臭いページをめくる。あるページで目をとめて、リーマスはつぶやいた。

「ゴーストの、実体化…?」






「いいんじゃねえの」


リーマスがジェームズとシリウスとを読んで自分の見つけたページを見せた時、まっさきに賛成したのはシリウスだった。彼はと同じ(けれどよりも硬質な色の、)瞳を思慮深そうに伏せて、俺はわけのわかんないものよりも、実際に相手できる方がいいね、と多少は厳しく言った。はそれを聞きものすごく納得した顔で何度もうなずく。(だから、首が折れるよ、。)


「うん、なんかもそれがいいっぽいよ」
「へー。実体化かあ」
「どうすんだ?」
「えっと…読んでみるね」


『ゴーストというのは、思念が凝り固まって他の人間にも見えるほどの強さを持ってしまった、いわば思念の塊であるといえます。まあなんとも、未練がましいものですね!でもそんなこと言ってる場合ではありません。思念は人間を構成する最大の材料の一つなのですから。60%は水?そんなことを言う人は、帰りなさい。そうそう、したがってゴーストの存在を支えているものはその思念であり、実体化とはさらにその思念を強めることで成り立ちます。そうです、要は気持ちの問題です。したがってゴーストの最も強い思念を増強させる原料に、その他数種の精神的活動を活性化させる薬草を混合することによってこれをなしとげる薬を作ることが可能となります。はい簡単ですね。けれども、言うは易し、行うは難し。ところでもちろんこの本においてはゴーストをつかった戦闘対策を勧めているわけで(かっこいじゃーん!)、やっぱりそう言う場合は憎しみや怒りをもったゴーストを使うのが…』


「…うーんと、なんか信用ならない書き方してない?この本」
「ジェームズっぽいな」
「うん…え、君たちのセリフを総合すると何かやな感じになるんだけど」
、へいき?」


を振り返って尋ねると、彼女は笑って頷いた。リーマスは少し考えてから、じゃあの思念は、何?と聞く。彼女は首をかしげながらつぶやいた。


「思念…かあ」
「今一番思ってることなのかな、思念って」
「今?」


はきょとんとした顔で聞き返し、それから首を激しく振った。リーマスは驚いてそれを見返す。どうしたんだろう、いったい。彼の不思議そうな顔にますますあわてながら、は急いで答える。


「いっ、今は、いいや!」
「え?(いいやって…?)」
「ええとね、でも、わたしが前まで一番思っていたことはね」


心配、とはきっぱりと言った。リーマスは眉をひそめて、何が心配なの?とたずねた。彼女は困った顔で首を振って、わからないけれど、とても心配だったの、と静かに答えた。そういう分からない衝動の方が、ゴーストとして存在する理由としては的確かもしれない。そう思って’心配’の欄にある材料を調べて(注釈欄が、『わあお、心配?それはまた、愛情深い、ゴーストだ!らっきー!』だった。…この本、ジェームズが書いたんじゃないのかなあ。)、紙に書きつける。


「じゃあ、あとはこれを手に入れれば、いいわけだね」
「楽しくなってきたなあ!」
「そうだな」


わくわくしてきたジェームズとシリウスは楽しそうに計画を練り始める。もそれを見て楽しそうに笑い、リーマスの方にいつもと同じようにやってきた。


「ありがとう」
「どういたしまして」
「あのねリーマス」
「なに?」
「今はわたしもうあんまり心配じゃなくて、幸せだよ」


彼女がそう言って泣きたくなるほどきれいに笑うから、(これは僕の望んでいたものだったけど、なんだか、なんだか不安なんだ。)リーマスは微笑みかえしながら思わず目をそらした。

きみの心配、がなくなっても きみはここにいてくれるかな








   

(070729)