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適当に、やみくもに走っていただけだった。しばらくたつとリーマスの頭も落ち着いてきて、見つかったらまずいなあとか、ジェームズとシリウスには悪いことをしたなあとか、そういうことを考える余裕も出てきた。リーマスは走るのをやめてゆっくり歩く。彼女と違って自分にはめんどうな足音があるのだ。(けれどきっと彼女も、これが欲しいだろう。) 誰かの呼ぶ声がしたような気がして、リーマスは立ち止まった。耳を澄ましても、何も聞こえなかった。(ジェームズとシリウスが実際に探してるだろうけど)(ごめん、ね)リーマスは一番近くにある教室の扉に手をかける。どこに彼女がいるかなんてわからないけど、でも、自分だけが彼女を探すことができる。 「…」 「……」 根拠のない自信に支えられてはいたけれど、実際にが教室の真ん中に立って自分を見つめている(足音が聞こえたんだろう)のを見た時には、リーマスは多少は驚いた。リーマスが声をかけるとは首を振った。今にも泣き出しそうな顔をしている。 「ごめんね、」 「リーマスはわるくないよ」 「そんなことないよ」 「ううん…あと、リーマスの友達も、わるくないよ」 ジェームズとシリウスのことを言っているのだろう、と思ってリーマスはうなずいた。あの2人は自分のことを心配してくれただけで、悪気はなかった。はやっぱり分かってくれている、そういうことを。リーマスはそう思って微笑んだが、は苦しそうに笑い返す。(ああ、無理をさせた。) 「わたしが、おかしいの」 「おかしくないよ」 「わたしはリーマスにとり憑いているのかな」 「そんなことない」 「でも、だって、」 「どうしてきみが僕にしか見えないのか分かんないけど」 僕はそれがとてもうれしいんだよ、と彼がいうと、彼女は泣きだしてしまった。リーマスは彼女のそばまで歩いて行って、手を伸ばす。触れることはできなくても、涙を掬ってあげることができなくても、傍にいてあげることはできる。が孤独に震えて笑えなくなるなんて、耐えられないよ。(ああ、とり憑かれていると言えないこともない。) 「…リーマス」 「なに?」 「ありがとう」 だってきみはこんなに優しく笑うことができるのに。 −−−−−− 談話室に戻ると、シリウスとジェームズはいなかった。部屋を探してみても、いない。もしかしたら自分を探しに城の中へ出て行ってくれたのかもしれないと考えると、リーマスはひどく申し訳なくなった。とりあえず彼はソファに座って2人を待つことにした。はリーマスの隣に座った。(座れるの?と聞くと、雰囲気だけです、と答えられた。) 身勝手に飛び出してきた自分をきっと必死で探してくれているジェームズとシリウスを待っていると、本当に自分はどうしようもなく、彼らに救われすぎていると思う。 「はさ」 「何?」 「僕が優しいとか言ってたけど、それはうしろめたいからかもしれないんだ」 「うしろめたい?」 「僕って、恵まれすぎてるから」 「それは…リーマスが優しいから、じゃない」 「優しいのは、ジェームズとシリウスだよ」 「どうしてそんな風に言うの?なにが、うしろめたいの?」 はひどく不思議そうな顔をした。リーマスは苦笑する。彼女にだったら自分が人狼だということを言っても平気な気がした。けれど、彼女も自分と同じように異質の存在だから、だから言える気がすると思うのはずるいことだろうか。そう考え込んでいると、は前を向いて言った。 「うしろめたくても、リーマスに優しくしてもらえて、うれしいよ」 「…そっか」 「たぶんリーマスはうしろめたくなくても、優しいと思うけれどね」 「そうかな」 「そうでしょう」 「…きみになら、そうかもしれないね」 「あはは」 が笑っているのを見ていると、談話室のドアが開いてジェームズとシリウスが入ってきた。リーマスを見て驚いた顔をして、なんだか言葉にならない音声を発した。リーマスは何を言えばいいのか分からなかったのでとりあえず、ただいま、と言ってみた。 「おっ…おかえり!!」 「あー…こっちも、ただいま?」 「あはは、おかえり」 「りりりリーマス、もうとり憑かれてないのかい!?」 「大丈夫なのか?」 「あーそれは大丈夫じゃないよ」 「えーそうなのー!?」 「リーマス!どうしたんだよお前!」 「良いんだよ、とり憑かれてても…寝不足になるだけだし」 「本当かい?君が良くても、僕たちはよくない」 「ああ、全くその通りだ」 「…ありがと」 ジェームズとシリウスは笑顔で返すリーマスを見て、顔を見合せて困った顔をした。しばらくたってからジェームズが、なんかリーマスいつもと同じだよなあ、とぼやく。俺もそう思う、とシリウスが続けた。リーマスは微笑む。 「うん、同じだよ」 「でも、なんか、変だろ」 「誰と話してんだ?」 「…、だよ」 ジェームズとシリウスは怪訝そうな顔をしていたけれど、さっきまでのような強張った顔ではなかった。リーマスがを振り返るとは笑って、わたしも友達になれるかなあ、と言った。 |