その日はマダムがいなくて僕はそれを思い出しながら医務室の扉を開けた。


するとそこには先客がベッドの上に座っていた。






__お葬式 嗚呼 綺麗な遺体には血痕も無く恐らく違和感を抱くのは僕だけ??







先客はかなり辛そうに下を向いている。
ベッドは諦めようと、僕はその場に腰を下ろそうとした。


すると思いのほか力が入らず、僕の体は重力に引っ張られるまま
なかなか派手な音をたてて床に激突した。


傷の痛みに思わずうめき声をあげると、先客が驚いて顔を上げた。


背後の窓からの逆光のせいで顔はよく見えなかったが、
髪が長いので女生徒だろうと僕は判断した。




手に大きな錫製のバケツを持って、それを膝の上に乗せて座っていた。


「あの・・・」



人影が僕に声をかける。やっぱり女の子だった。
だから何なのかというと、僕はますますベッドを諦めるべき状況になったということだ。

ビバ英国紳士。頭がうまくまわらない。マダムは何処だ?



どうして、何故いま此処に人が居る?満月は沈んだ?ああ、沈んださ。





「あの」
「僕は平気だよ(にっこり)」
「そうは見えないです・・・」
「あはは、そう?(笑うと腹筋が痛いな)」
「ええと、リーマス・ルーピンさんですよね」
「うんまあ。よく知ってるね」



首を傾げると首筋が痛い。が、
むしろ全身がひどく痛むので最早どうでも良くなってきた。


「そりゃ・・・知ってますよ」
「ふうん(仲間があれだもんな)君は?」
です」
「よろしくさん」
「な、で良いです」
「それじゃ僕もリーマスで」



彼女は何故かひどく嬉しそうにへへ、と笑った。
そしてその直後にとても慌ててベッドから下りた。



「すすすいません!」
「平気だって(にっこり)(痛ぇー・・・)」
「いやあたしこそ平気なんです!椅子ありますし!」


彼女は近くにあった机にバケツを乱暴に置いた。
僕のほうに駆け寄ってきて助け起こし、ベッドに座らせる。



消毒薬とって来ますねマダムいないんですよ!と言いながら
ばたばた奥に消える後姿を見て、彼女は本当に病人だったのかと少し思った。





「はい、できました」
「どうも有難う」


はとても手際よく僕の傷を手当てしてくれた。

血塗れな腕に触れるときも至って普通だった。



「すごく上手いよ。医者になれるね」
「え、へへ、無理ですよ・・・」
「そんなことないよ」
「そうですか?」



彼女はとても嬉しそうに言って、道具をてきぱきと片付けた。


僕はその様子を黙って見ていた。邪魔をしてはいけないだろう。



すると、ふと机の上に置いてあるバケツに目が止まった。


それはとても無機質な輪郭を蛍光灯の明かりに浮かび上がらせていた。
滑らかな液体がかなりの量たまっていて、それは僕に嫌なものを連想させた。




まるでそれが僕にはバケツ一杯の血に見えたのだった。


嫌な考えを振り払って、尋ねる。





「あのさ、何それ?」
「それ?」
「そのバケツ」
「ああ・・・」


は至って普通に微笑んで、血です、と言った。


その言葉を僕が理解するのに数秒、さらに言葉を発するのに数秒かかった。


「・・・血?」
「はい、そうです」
「飲んで」
「ませんよ何言ってんですか!逆です!」
「じゃあ吐いて」
「そんなとこです」



僕は息を呑んでバケツを見つめた。
それはとても巨大な容積を有しているように見えて、
ほとんどいっぱいいっぱいに滑らかで赤黒い液体が溜まっていた。


大量の血に僕はかなり驚いていた。とても驚いていた。

でもそんなことで態度を乱したくなかった。僕の友人たちのように。




「うわぁ・・・血ね」
「びっくりしました?」
「まあね。こんなこと人に話して良いの?」
「あまり良くないです」
「だよねぇ・・・まあ僕は口は堅いよ」




僕はそう言ってなるべく急いで立ち上がろうとした。
体中がきしんで上手くいかない。足元がふらふらするが何とか立ち上がった。



「わ、ちょ、動いちゃ駄目ですよ!」
「ああもう君こそ寝てなきゃ!」
「あたしは寝る必要ないですもん!」
「でっ、でも・・・」
「吐くだけですから。今日はちょっと多いです」
「(・・・だけって)」
「へへ、やっぱり優しいんですね」



はまた何故かひどく嬉しそうに微笑んだ。

僕は優しいとかそういう問題じゃないだろうと思っていた。





そしてそれから彼女は唐突に言った。


「リーマスは」
「ん?」
「あたしの気持ちが分かってくれるのではと勝手に」
「・・・どうして?」
「ワケありなんでしょう」
「・・・・・」
「毎月大怪我してますから」
「・・・知ってるの?」
「知ってるかもしれないし、知らないかもしれないです」



は至って普通に微笑んだ。僕も自然と微笑んだ。

顔の筋肉がひきつったが、僕は微笑めていたのだろうか。



彼女が僕に秘密を話したのは、僕の秘密を知っていることへの保障なのかもしれないと思った。





「あたしはですね」
「・・うん」
「死にたいと思ったことがあるんですけど」
「ああ、うん」
「やめたんです」
「そっか・・良かった」
「貴方たちのおかげなんです」
「・・えっと」
「本当に感謝してます」
「・・みんなにも言っとくよ」
「へへ、有難うございます」



はとても嬉しそうに笑って、僕はその理由を知った。そして彼女は言った。


「あたしは血を吐いてでも生きたいと思います。そう思うのは、」



貴方のお陰ですね血を吐くように言ったと思ったのは僕の錯覚だったのだろう。



人狼の僕でも人の役に立てるのだろうかと少しだけ思って、馬鹿なことを思ったと笑って、
それでも僕は嬉しかったんだと思う。保健室の薬を飲んで自殺しようかと考えていた事も忘れるくらい。







  ◆










そしてそれから2日たって、の友人だと言う女生徒が2人泣きながら
僕にの葬式に出てくれるよう頼みに来た。






そして僕はの葬式に行った。









僕に血を吐いてでも生きたいと言った少女の、葬式に行った。




それでも僕はまだ死ねない、と、きっと君の為にそう思った。












030802(おお暗い!すみません・・・;;)
031110(意味不明でムカついたんで少しだけ書き直したけどやっぱ意味不明ですいません)