涙の理由を知ってるか??
知らないんだろう、なあ、きっと(そうあたしは心の中で思うだけで状況は進展せず 今日も雨だ
今日は朝から超豪雨。あたしの機嫌は最悪最低。雨音って、ムカつくよね、そうじゃない?
そしてあたしは前方を睨みながら廊下を歩いていた、くせにあまり前を見ていなかったらしい。
「お」
「ぎゃ」
今時曲がり角でぶつかるなんてありなの?少女漫画?あー何でパンくわえて来なかったんだあたし。
ていうかこれで相手が美少年だったらもう寒すぎて笑えな
「悪ぃ」
「え」
「?」
「…(笑えない…)」
目の前にいるのはシリウス・ブラックだった。美少年代表選手。笑えない、これ。
でもここから少女漫画的展開になるというのは取り敢えず有り得ないからまあいいか。
あたしは気を取り直して、にこり愛想良くと言った。いえ、こっちこそゴメン。
「あー別に。あ、お前うちの寮?」
「いや違いますけど」
「ふーん」
「…」
ていうかネクタイしてるじゃん。こっち見ろよ。というか話しかけられた事実に既に驚きだし。
しかも何だか聞く意味の分からない質問だし。しかも訊いたくせに興味無さそうだし。何なの。
この人は皆に対してそうなのか。あ、そうか。そうなのかプレイボーイだもんね。
でもよく考えてみたら前にも話したこと、在った。少しだけどほんと。ほんの少し。
優しいんだよな喋ってみるとほんと。信じられないくらい優しかったよな。
ていうか、睫毛、長い。
「…行かないのか?」
「え?」
「え、どっか行くんじゃねえの」
「あ、うんまあそうだけどお先にどうぞ」
「あー」
何だか困った顔をされた。何この人。あ、女性優先?フェ ミ ニ ス ト?!すごいわ。
さすがシリウス・ブラック。さすがモテ男代表選手。やっぱ違うね。睫毛長いし。
そう思ってあたしがへらへらしているのにも気付かない。つうか、こっち殆ど見て無いし。
まあそれで良いんだけど。全く、少しも、毛ほども、構いやしない。
「ぶ、ブラックは」
「シリウスでいーけど。名前知らねえの?」
「いやそんなはずは!」
「じゃ、シリウスで」
「あーうん…」
「何?」
シリウスはポケットに手を突っ込んで遠くをぼんやりと見ながら、何も考えて無い顔で言った。
ほんとにさっきからこっちを一回も見て無いだろあんた。イジメか。新手の。
そしてあたしは思っていたわけだ。あ、この人、あたしの名前、聞かないんだな。
そうだよね。どうでも良いよね。全くもって心から納得、その通りだ。どうでもいい。
「…シリウスは、行かないの?」
「あー」
「…」
「ていうかね、待ち合わせなわけよ、俺」
「え、あ!ごめ」
「いや別に」
「ごっごめんね、じゃ」
「おー」
何?何であたしこんなにぎくしゃくしてるわけ。何をこんなに動揺してるわけ。
別に彼女と待ち合わせだからってそんな遠慮しなくても。いや、やっぱするか普通。
そそくさとその場を去ろうとすると、シリウスは格好良く左手を上げて、ひらひらと手を振った。
いや、こっち見ろよいい加減。後姿を睨み付ける。振り向かないのは、知ってる。
あー。さようなら、シリウス。
「あ!」
「!」
後ろから声がしたので思わずびくりと振り向く。って、あたしに言ってるわけないじゃん。
「おい、えっと、」
え?何?何でこっち見てんの?やっぱあたしに言ってる?そしてこの様子からすると、あれか。
「だけど」
「あ、」
彼の端正な唇が自分の名を紡ぐ事はあたしをどうしても数秒恍惚とさせた。やばい。
これで彼、あたしの名前を知ったわけだよ。どうせ3歩歩けば忘れるだろうけど。鳥か。
「このこと、お前の寮の彼女にはナイショな」
「彼女、って、レイブンクローのあの」
「おう。あ、つかお前レイブンクローか」
「…最初から思ってたんだけど、ネクタイ見たら分かるよね?」
「あーそっか。じゃあレイブンクローの彼女には言うなよ」
「いやレイブンクローの、って」
「各寮1人なの、彼女は」
「は?!」
「はっはっは」
「いやアンタはっはっはじゃなくて!」
「だーかーら、ま、秘密にしとけよ」
「…」
開いた口が塞がらないって言うのはこういう事なんだろうか。女の敵め。いつか刺されて死ぬぞ!
問題は、その刺すのがあたしかもしれないって事。あたしストーカー化?あーやばい。
それよりも今ここで、あんたに彼女と別れて欲しいからばらしてやる!好きだ!って言うべき?
どうして秘密にしてなきゃいけないわけ?何であんたの言うこと聞かなきゃいけないわけ?
それともあたしがあんたの言うことなら全部聞いてしまうと、知ってる、わけ、ないか。
「…」
「な、頼むから!」
「分かったよ…」
「サンキュー」
「信じらんない!じゃあね!」
「それが普通の反応だよなあ」
「…」
「誰かさっさと振らねえかなー俺の事」
は?何言ってんのこいつついにイカれたか。しかも目が微妙に遠いし。本気っぽいし。
やっぱモテ代表選手の言っている事は理解出来ない。そんな人に惚れてる自分も理解不能。
「じゃ、じゃあ言ったほうが良いんじゃないの?レイブンクロー”の”彼女に」
「お前今、”の”って強調したよな」
「してないです」
「いーや、したな」
「して何が悪い!」
「いや別に。つうかねえ、もう皆、知ってんの」
「皆?」
「こう、何つーの、二股掛けられてるわ、みたいな?」
「…うっそー」
「でも気付かない振りしてるっぽくて、可哀想だから、俺は秘密にしてんの」
「……」
何がそんなに可笑しいの。何でそんなにくつくつ笑ってんの。
そんなこと、されるほうがよっぽど可哀想だろ。あんた、分かってんでしょ。
「…」
「何?怒ってんのちゃん?」
「…ね」
「は?」
「死・ね」
面食らった表情のシリウスを取り残してあたしは去った。あー最高。超気分良い。
なのにどうして、涙が、出るんだろうな。
相変わらずの超豪雨。あたしの機嫌は最悪最低。雨音って、ムカつくよね、そうじゃない?
そしてあたしは前方を睨みながら廊下を歩いていた、じゃないと泣きそう。今にも。
あたしがどうして泣いてるか、知ってんのかあいつは。いやそれ以前に泣いてる事も知らないか。
シリウスがあたしの名前を読んで感動して泣いているんじゃなくて(感動したけど)
各寮の彼女様方が可哀想なわけじゃなくて(むしろ羨ましいだろ)
シリウスに腹を立てて泣いちゃってるわけでも無くて(確かに腹は立つけれども)
そんなシリウスが好きな自分が可哀想で泣いているんじゃなくて(可哀想だけどさ)
あたしは彼があたしの方を結局一度も見なかったから、泣いていました。
050705(え…いやこんなことになる予定じゃなかったよほんと