Strange Common People---月と拳銃---ツキト ケンジュウト キミト アタシト








だらだらと寝そべっていると自分が床と同化したみたいだった。
それはとても気味の悪い感覚で、でも起き上がることは出来なかった。


起き上がる必要を感じるためにこれからの予定を反芻してみると何となく
今が真夜中だという事に思い当たった。つまりあれだ、予定は無い。てか問題はそこじゃない。





このまま眠っていても良かったのだろうけれど、月が綺麗だったから。









―――――











螺旋階段を登る。足音が響く。足音だけしか響かない。
それでも別に寂しくはなかった。みんな、眠っているのだろうと思った。


誰も起こさないようにそっと階段を登りきってから、どうせ気をつけるんだったら
塔に来る前にやっておかないと意味が無いんだということに気付いた。
今さら、今さらだったのであたしは気にしないことに決めて外へ出た。正確には、屋上だ。



階段はとても長く感じたのにそこから見える景色は意外に低かった。
努力の分だけ成果が現れるわけではないということか。関係ないかもしれない。






月はやっぱり綺麗だった。








「・・綺麗」






呟いても聞く相手がいない。






「だなぁ」





別にそんなことはどうでも良かった。そんなことは昼に飽きるほどやっていた。
別にそういうお喋りが嫌いなわけではなかった。ただ今日は月が綺麗だった。


石で出来た手すりはきっと夜気でひんやりとしているのだろうと思った。









ぱん!









あ・れ・は!闇に響く銃声!(たぶん違う)




ぱぱん!ぱん!とその音はとぎれながら連続して鳴った。
あたしは聞き間違いじゃないということを確かめるために(それだけだ)目を向けた。









(あれは、えっと、あれ?誰だっけ?どこかで見たような気がするんだけど?)








分かんねぇ。という自己完結でそれは終わった。

ただその人間は月に向かっておもちゃの鉄砲でぱんぱん音を鳴らしていた。
銃声だというのは、当たっていたというわけだ。





くるりと彼は振り向いた。もしかしたら彼女かもしれない。ショートカットの。


そしてその人は硬直した。そりゃ恥ずかしいのも分かる。だって何やってんの。
こんな真夜中に校則破って鉄砲遊びだなんて。まあ、あたしも似たようなものだけれど。





「・・な」
「シュミ?」
「は?」
「まあ・・好きなら良いんじゃない・・うん」
「え、や、違・・良いやもう・・」
「まあ誰にも言わないよ。あたしのことも言わないでね?」
「ああ、うん」




彼(たぶん声的には男だ)(そしてまたどこかで聞いたような気がするんだ)は黙った。
あたしも会話を続ける気力も無くて、会話を続けて果たして相手が迷惑でないかも分からなかったので黙った。
あまり気分の良いものではない沈黙が流れる。




でもその方が都合が良かった。あたしもあたしが誰なのかなんて言う気もなかったから。
彼が誰なのかも知りたくなかったから。今はそんな世界とは無関係にここに居るのだから。



つまらないものとかくだらないものとかを壊す力も無いから。だからここにいるんだ。
こんな沈黙にさえ耐えられない。あたしはおもむろに口を開いた。迷惑かもしれないかもしれないと思いつつ。





「ええと、何をしてたの?」


あたしは聞いた。答えなんて別にいらなかったけどたぶん無視されたら悲しかったんだろう。
そういう自分勝手な考え方が得意だった。他人には言わないように気をつけていて、でもずっと自分の中にある。


「撃ってた」
「・・ごめん、見れば分かったね。わざわざ聞かずとも」
「良いよ。ストレス解消にやってみる?」
「うーん、得意じゃないし、何に当てるの?」
「月を狙うんだよ」
「え」
「月を狙って」
「何で?」



何で?彼は不思議そうに聞き返した。ごく自然に不思議そうに。何故君は息をしないのというかのように。
それから肩をすくめて答えを返す。努めて何でもないことのように言っているように見えた。


「狙いやすいからかな」
「でも、当たらないよ」
「届かないよね」
「あはは、空しいなあ」





あたしは冗談でそう言ったのに彼は落ち込んだように下を向いた。
少しだけ慌てた。実のところだいぶ慌てていた。声が喉につっかえるのを感じながら喋ろうとする。



「あ・・や、あの、」
「そうだね」
「へ?」
「あー空しーい!」




どもりながら言ったあたしの言葉を遮って、彼は叫んだ。
誰か起きてくるかも、嫌だな、そう思ったけれどすぐに忘れた。




空しいよ!と彼は叫んで空に両手を伸ばした。綺麗な長い両手だった。





「分かってる!どうしようもないし!ああもう空しい!やってらんない!」




手すりにいつのまにか放られていたおもちゃの拳銃に手を伸ばして、


「でもそれでも僕は何かせずにはいられないんだ、若いからね!」


あはは、と笑って彼は引き金をひく。弾は暗闇に吸い込まれていく。月には届かない。



「分かるよ」


気がついたら口走っていた。怪訝そうに振り向かれて、少し気まずい気分になって俯く。


「・・意外」
「へ?」
「変人だと思われて敬遠されるかと思った」
「・・そりゃあ、そうされても仕方ないよ」
「あはは、まあね」
「でも分かるよ」
「そうかな?」
「あなたのことは分からないけどね、何かしないではいられないってのは分かるよ」
「・・・そっか」



暗闇の中で彼は微笑んだような気がした。見えなかったけれど、そんな気がした。
あたしはとても嬉しくて、見えないだろうけど微笑み返した。届かなくても良い。



彼は手に持っていた鉄砲を月にもう一度向けた。引き金を引いた。弾は出なかった。



「弾切れだ」
「あーあ」
「もういっか。ストレス解消になったし」
「良かったね」
「うん、ありがとう」
「いえいえ・・じゃあ」

あたしはそろそろ眠くなってきたので階段へと続く扉の方を向いた。
彼の不思議そうな声が背後から聞こえて、最初の目的を思い出した。


「もう良いの?そっちは何しに来たの?」
「・・・」



月を見に来た。何故かそれを言うのを躊躇って、結局言いたくなくなってしまった。
適当な理由を考える。眠れなかったから。嘘ではない。月が気になって眠れなかったのだ。


「眠れなかったから・・かな」
「ふうん・・そっか、お休み。・・さよなら」




振り返って階段を下りるあたしに聞こえた最後の彼の言葉は、ありがとう、だった。
理由は分からなかったがあたしは微笑んだ。届かなくても良い。







結局あれは誰だったのか、卒業した今もあたしには分からない。分からなくても、良い。













031031(謎ーい!わかんねー!誰だー!)(三拍子★)(ごめんなさーい!)