l i v i n g d e a d**アイアムリヴィングデッド
どうやらあたしは難しい事を考えるのが嫌いではないようだ。
しかしそういう時のあたしは死んだような目をしているのだろう、それがとても嫌いだった。
◆◆◆
裏庭。暖かい日光が降り注いでくるこの場所は、かなりお気に入りの場所だった。
体調が悪い時には来ないけれど、気分が良いと気持ちよく感じる。
気分が沈んでいる時には、明るいものとか暖かいものなんて頭にくるだけだからだ。
今日はあたしは機嫌が良かった。だからその定位置のベンチで日光浴をしていた。
誰も来ないだろうと思って目を閉じると、まるで息をしていないかのような何とも素敵な気分になった。
きっと今あたしが目を開いたら、死んだような目をしているに違いない。
別にそれでも構わない。そのくらいに、気持ちの良い日光だった。ひなたの良い香りがした。
「あ、」
そのとき突然に無粋にも沈黙を破って耳に飛び込んできた声に、あたしは不機嫌な顔で薄く目を開けた。
前に人影は無い。あたしは首を後ろに回した。
「リーマス君」
「やっぱりだ」
へらり、と笑ってあたしの名前を言ったのは、同じ寮のリーマス・ルーピンだった。
あたしも特に意味も無く、へらりと笑い返す。
あたしだって大抵いつも笑っているが、彼には負けると思っていた。
それが今日はとても心地良く感じて、あたしは彼に何も考えず素直に話しかけた。
「こんなとこで何してるの?」
「別に・・散歩」
「散歩か」
「うんまあ。そっちは?」
「あたしは、日光浴」
「似たようなもんだね」
「まあねー」
あたしにとって言うなればその笑顔は、ここの日光のようなものだった。
気分が良い時にそれを見ると、とても癒される。
落ち込んでいるときに見ると余計に落ち込むというか、妬ましい気分になるのだ。
つまり、本当はとても好きなのだろうと思う。
「リーマス君、もしかして珍しく暇なのかな?」
「珍しくないけどね・・」
「うっそ、珍しいよ」
「そうかな?けっこういつも暇だよ」
「そんなことないよ・・いつも色々してるよ」
「そうかなぁ」
「ど、どうなのかな?でも本人が違うってなら違うよね」
「分からないよ」
「そっか」
軽く肩をすくめるリーマスを見ながら、あたしは彼はやはり暇なことは少ないと考えていた。
いつも女の子に囲まれていたり、友人と何かたくさん喋っていたり、先生に追いかけられていたり、
悪戯の仕込をしていたり、誰かに挨拶を返していたり、まあ色々、だ。
「どうかした?」
「え?ううん別に」
「そっか?」
先程とは微妙にニュアンスの違う「そっか」を、あたしは聞き分ける事が出来たが、何も言わなかった。
リーマスは手持ちぶさたな顔でぼんやりと立っている。
「座りますか?」
「あ・・うん。良いの?」
「へ?え、も、もっちろん」
あたしはリーマスに自分の座っているベンチの隣を勧めた。
自分はあまりこういうことをするタイプでは無かったと思うのだが、何となくだ。
それに、彼が座るはずも無いだろうというのも頭の片隅にあったらしく、あたしは少し困惑した。
どうして彼が座るはずが無いと思っていたのか、あたしは少し考え込んだ。
「どうかした?」
「え?や、何でもないよ」
「そっか」
リーマスは暇そうに目を閉じた。あたしはそれから目を逸らして、自分の前の花壇をひたすら見た。
それを見ることから何かを得られるわけでもないのは明白で、あたしはすぐにそれにも飽きた。
やっぱり、難しく考え事をするのが一番面白いらしい。
そういうふうに考えごとをしているあたしは、死んだような目をしていることだろう。
「リぃーマスー」
「あ」
どことなく聞き覚えのある声に、あたしは思わず声をあげた。
花壇の向こう側にくしゃくしゃの黒い頭が見えた。
「リーマス君、ジェームズ君だよ」
左を向いて言ったが、応答が無い。あたしはリーマスの肩を少し叩いた。
「・・・・・」
動かない。眠っているようだ。
「・・・・・」
その時がさがさと茂みを(しかしそれは花壇の上だ)かきわけてジェームズがやってきた。
あたしはそちらに困った顔で視線を向ける。
ジェームズがいつものおもしろそうな顔でこちらを見返して尋ねる。
「どしたの?」
あたしは左の鳶色の頭を指差して、小さな声で言った。
「寝てるみたい・・」
「ああ誰かと思ったらリーマスじゃないか」
「さっき、探してたでしょ」
「まあねー。大した用じゃないんだけどね」
「どうしようかな・・」
「そのまま寝かしといてあげてくんない?」
「え・・でもジェームズ君の用事が」
「いやほんと大したことじゃないしー」
「あ、そうなんだ・・」
「帰るときに起こしてやってくれよ」
「う、うーん・・」
ジェームズはさっさとこちらに背を向けようとした。あたしは急いでそれに声を掛ける。
「や、でも、ちょっと!」
「何か問題でもおありで?」
「やっぱ、連れてった方が良いんじゃない?」
「どうしてさ」
「どうしてって・・ジェームズ君たちと何かするほうが、合ってるよ」
「何かするっても悪戯だけどね」
「それが良いんだよ」
「まあ、その通りだ」
「それにリーマス君は、ジェームズ君たちと悪戯をしに行きたいだろうし」
「そうかな?」
「うん、多分」
「うーん・・」
「こんなところでぼんやりしてるの、合わないよ」
「そうでも無いと思うけどね」
「そっかなぁ」
何だかこのまま言いくるめられてしまいそうな気配を感じて、あたしは溜息を吐いた。
それを見て、ジェームズがあたしに向かってにこりと笑いかけた。
「、迷惑?」
「いや別にそんなことは無い・・けど」
「リーマスはねえ、君の雰囲気が結構好きだって言ってた」
「は?」
「なんていうのかな、死んだ魚のような」
「・・・」
絶句してジェームズを見上げると、彼は楽しそうに笑って、じゃあよろしく、といった。
あたしはこちらに背を向けた彼の後姿に声を掛けずに、じっと見詰めていた。
左を向くと、いつもとても生きているリーマスが死んだように眠っているのが見えた。
あたしはそれを見ながら、自分のことが少し好きになれたかもしれないと、また難しく考える。
040327(いやいやいや・・何これ。つかジェームズの方がいっぱい出てない?)