紅
一面氷の真っ白な、いや、氷は白くないから透明な世界。君は綺麗に微笑んだ。
透明な世界の片隅で、何故か僕の目には鮮やかで美しい赤い色が写った。
―――
「・・う」
明るすぎる。きつい黄色の光が顔に直接当たるのを感じて、僕は露骨に顔をしかめた。
放っといてくれ、と叫びたくなるような衝動に駆られる。
「起きろぉリーマース!起きてんのかー?」
「煩せえぞジェームズ」
「だってさあ、もう昼だし?」
「お前の疑問系はムカつくんだよ」
「うわ!さすがに酷くないか?」
「だからやめろって」
「シリウス低血圧?」
「もう昼だぞ・・」
「あ、そうだそうだ、起きろよリーマス」
放っといてくれと叫びたくなる衝動を無理矢理抑えて、僕は少し目をこすった。
逆光で顔が良く見えないが、誰なのかはもう分かっていた。しかしひどくうっとうしいのは、日光だ。
「ほっといて・・(日光め・・)」
「何この子!反抗期?」
「なあお前が疑問系をやたら使うのは俺に対する反抗か?」
「細かい事は気にしない」
「おいリーマス起きろって。何時だと思ってんだ」
「珍しいなぁ寝坊なんて」
僕は立ち上がって洗面台に近づいた。近づきすぎて、鏡に頭をぶつけた。そのおかげで少し眼が冴えたが。
痛む頭を押さえながらまた目をこすった。こすりすぎると痛いだろうということも分かっていた。
蛇口をひねる。水は、出て来ない。
「あれ・・?」
「やっぱ水が出ない」
「凍ってんだよ」
氷の世界。そんな光景がちらりと頭を掠めた。まだぼんやりしていて、よく分からない。
「取り敢えず、下りようぜ」
シリウスが言った。下りる、というのは食堂に下りると言う事だ。
分かっていたのだが何故か僕の頭には氷の世界に降り立つシリウスが浮かんだ。滑稽だ。
「あはは!」
僕が笑い出すのをシリウスとジェームズが気味の悪そうな目で見ているのも分かっていた。
―――
「おはよー」
食堂で声をかけられて振り向くとが立って手を振っていた。毎朝の見慣れた光景だ。
「昼だけどね」
僕はそういって席に座った。自分に対する皮肉を滑稽だと感じた。笑い出してしまいそうだ。
寝ぼけていた僕を起こすのがどんなに大変だったか、シリウスとジェームズはくどくど話した(特にジェームズがだ)
それをとリリーとピーターは面白そうに聞いていて、僕はつまらなさそうに聞いていた。
つまらなさそうな顔のまま、僕はデザートに手を伸ばした。
それを横目で見たが、美味しそうだね今日はまた、と言ったので頷き返しておいた。
「水が出なかったんだ」
ジェームズが言った言葉に、僕は顔を上げた。何となく気になったからだ。水、と言う単語が。
今朝見た奇妙な夢の内容を、珍しいことに恐ろしくはっきり覚えていたせいもある。
「何でだったの?」
「凍ってたからじゃねえの」
「すごい寒いんだよ外!」
僕の質問に、シリウスが気のない声で答えた。がその後を引き継ぐ。
つまりあれだ、寒くて水道管が凍ったとか言う、あれだ。
「もう直ったけどね」
ジェームズが楽しそうに言った。何が楽しいのかさっぱり分からない。リリーが居るからだろうか。
リリーはといえば少し首を傾けて思案顔だ。ジェームズが気付いたら騒ぎ出すかもしれない。
「直ったわよね・・」
「うん?」
リリーの呟きにジェームズが機嫌よく返事を返した時だった。
びしっ、と嫌な音がして、食堂の端から噴水が吹き上がった。
「わ・・!」
思わず声を上げる。水はやたらと多く、僕も皆も覆ってしまったようだ。
周りに慌てて目を向けると、どうにかだけが見えた。
「寒い」
は綺麗に微笑んで言った。何も考えていないかのようにデザートを口に運ぶ。
ああ、あの時氷だと思った透明なものは、水だったのかもしれない。
今日のデザートは、真っ赤なクランベリーのパイだった。
031216(何が何だか)(ベリーパイ食べたいなぁ)