「リーマスって、嫌いな奴とか居んの」
「えー…っと、まあ、苦手な人なら」
「ふうん。誰」
「教えられないなあ」
「じゃあ俺の知り合いか」
「そんな事は言ってないよ」
「へえー?」
「うわシリウスその顔きもい」
「は?ありえねえだろんなことは」
「否定の仕方がおかしいって」
「ふうん」
「別に嫌いじゃないよ」
むしろ、どちらかというと、意外に、さりげなく、実は、逆かもしれない。
それを恋と呼ぶのかもしれない
「あ、おはよ〜」
「おはよう」
「眠そうだね」
「別に?」
「えっと…何でもないけど」
「何?」
「元気?」
「元気だよ」
「そっか」
「うん」
シリウスと何やら喋っていたに挨拶をされたから、適当に返した。
質問にも適当に答えた。は興味が有るのか無いのかよく分からない顔だった。
シリウスまでが具合でも悪いのかと心配そうに言うので、二日酔いだよと適当に答えた。
「リーマス君て、お酒飲むの!?」
「さあ…まあ…(飲まないな)」
「意外だなあ」
「そう?あんま面識無いしね」
「あーうん、そうだね…」
は力なく微笑んだだけで、何も言わなかった。多分傷つけたと思う。何も言わなかった。
シリウスが退屈そうに窓の外を眺めて、僕もそれに倣った。は何時の間にか居なくなっていた。
香りだけ、残る。
「って」
「え」
突然僕が喋ったので、少し離れたところに行きかけていたは愕いた顔で振り返った。
しまった、と思いながらとりあえず真顔で続ける。
「香水でも付けてる?」
「え、や、ちょっとだけ…」
「ふーん」
「きついかなあ?」
「別に、どうでもないけど」
「そ、そっか…香水とか苦手?」
「まあね」
「あー、そうなんだ…」
別に香水は苦手じゃないし、がそれを付けている事も前から知っていた。
「あ」
後ろで声がしたので振り返るとが何か大きなものを運んでいて、落としていた。
よく見るとそれは群青色の地球儀だった。ごろごろと転がってくる。革靴で受け止めた。
JAPANをこちらに向けてそれは止まり、がその向うでにかりと笑った。
「ありがとー」
「うん、別に」
「いやもう止めてくれなかったらそれ、階段から落ちてたよ!」
「はは」
「あ、JAPANだ」
「?」
「あたしの故郷なの」
「そう」
「そうだよ」
は嬉しそうな顔をして、懐かしいなあと呟いた。僕は黙ってそれを聞いていた。
ずっと片足で地球儀を止めている。が、ありがとう、とまた言いながら地球儀を拾おうとする。
「持つよ」
「えっ、何で!」
「何でって…大きいから?」
「いやでも、普通落とさないよね」
「さあね」
「わー否定なしか」
「はは」
「えっと、でも今忙しくない?」
「別に…」
「うーん、でもやっぱ…良いよ。大丈夫!それ1個くらい」
「そう?」
「うん。ありがとう」
僕は頷いてそれをに渡した。日本の裏側の、南アメリカが今度は上を向いた。
が言い訳をするかのように、だってどこに持って行くか知らないしね、と言う。
僕は、そういえばそうだ、と答えたが、本当はおおよそ見当が付いていた。
もっていかせてくれればいいのに、と、いやそんなことは思わないはずだ。普通なら。
「じゃあ」
「うん」
「あ、そう言えば!今日は香水付けてないんだよ」
「え、今までずっと付けてたのに」
「知ってたんだ?あーそっか、匂いに敏感だもんね、苦手な人は」
「え、まあ、そんなとこ」
「付けるの止めようかと思って。だってリーマス苦手なんでしょ?」
はそう言ってにかりと笑った。僕はどうするべきか分からなくなって、黙っていた。
彼女が心配そうな表情になるので、わざわざごめん、ととりあえず言っておいた。
「いやあ…えっと、じゃああたし行かないとなので!」
「あ、うん、じゃあまた」
遠ざかる後姿を見ながら、もうの香りはしなかった。
本当は、彼女の故郷がJAPANだという事も、今日は香水を付けてない事も、分かっていた。
「あれ?」
「おう」
「あ」
前からやってくる大きな球体の影から顔を出したのは、紛れも無くだった。
僕は思わず少し笑いだしてしまう。隣のシリウスが怪訝そうに首をかしげた。
「また地球儀運び?」
「そうなの!信じられないあの爺さん!」
「地理の爺さんか」
「あー、あの人ね」
「もう毎回毎回何なんだろうかとあたしは思うよ」
「気に入られてるんじゃねえ?」
「あの人割と良い先生じゃん」
「うん…でも用具運びは嫌だな…」
「へえー?」
「それなら…」
「シリウス君!男でしょ!」
「はあ?信じらんねえこの俺に荷物運びをさせる気かてめえ」
「…シリウスの荷物は僕が持ってっとくから」
「さすがリーマス君!じゃあ頼むよミスター・ブラック」
「ブラックて…何気取りだよ」
シリウスは渋々重そうな地球儀を受け取った。今日はJAPANも南アメリカも何も見えない。
が華奢な肩をぐるぐると回しながら言う。
「肩凝ったぜー」
「あーはいはい。俺も凝りそう」
「じゃあさよならシリウス」
「よろしくね〜」
「さよならってリーマス…」
ぶつぶつと何かを言いながらシリウスは角を曲がる。
二人で暫くそれを見送ってから、同時に口を開いた。
「「じゃ」」
互いに目を見合わせたまま固まると、がぶはっと吹き出して言った。
「お先にどうぞ」
「や、良いよからで」
「いいよいいよ」
「え、僕はただ、じゃあもう行くから、って」
「え…あ、うん、そっか」
「は?」
「いや何でもないよ!」
「え?」
「ほんとに、何でも…」
「そう?」
「あーうん。えっと、似たような事を」
「そっか…」
歩き出すとすぐにの姿は視界から消えて、今日も彼女は香水を付けていなかった。
本当はさっき自分が運ぼうと僕は言いかけた。その前にはシリウスに頼んだ。
少し、嫌な気分だったが、それくらい気にする事ではないと思う。多分。普通なら。
「…」
振り返るとはまだ其処に立っていて、こちらを見ていた。
僕は少しそれに笑いかけ、硬い廊下を歩いていく。後姿を、が見ているのだろうか。
もう確かめる気にはならない。
「ああ〜もう死ぬ〜あたし死ぬ!死にたい!殺してくれ!」
「馬鹿じゃねえのお前」
「だってだってだってリーマス絶対あたしのこと嫌いなんだあれ…!死のう…!」
「何でだよ。飛躍しすぎなんだよ」
「だって速攻どっかに行っちゃったよ!ああもう!」
「教室に行ったんだろ」
「シリウスの道具を持ってついてこうと思ってたのに…」
「お前人のこと利用しすぎ。つうか馬鹿?」
「馬鹿って…」
「だってもう意味不明だろそれ。リーマスは意外と何も考えずに行動するタイプだしな」
「わーあんたが言う?」
「俺はちゃんと熟慮しているとも」
「ふーんそう…言っとけ」
「ていうか人がせっかくチャンスをな、やったのにな」
「そんな事頼んでないしね!」
「お前が持ってけって言ったんだろうが。地球儀だか何だか知らねえけど」
「それはそうだけど…乙女はみんなそんなもんなんだよ…」
「どんなんだよ」
「こんなんだよ」
「げ、本気かよ?がか?聞き間違いか?」
「ムカつくなあいちいち…!」
「何でそんなにあいつ好きなの」
「第一そんなことをあんたに言った覚えは無いのに!」
「バレバレだからなあ」
「嘘…!」
「嘘…だと良いな。さあな(…)」
「…!駄目だもうあたし学校休む…」
「住んでんのに」
「ああ…!何故に全寮制…!」
「そこから突っ込まれても」
「もうとにかく顔が合わせられない無理無理無理」
「あっそ。じゃーもうわざわざ先生に頼んで地球儀とか運ぶなよ」
「は!?何でそれを…!」
「いや適当に言ってみただけだけど、まさか当たるとは。お前ストーカー?」
「…乙女はみんなそんなもんなんだよ…」
「ストーカー?」
「紙一重」
「やばっ」
「お、はよ」
「おはよう」
が微妙に目を泳がせながら挨拶をしてきたので、少し驚きながら普通に返した。
シリウスが、昨日の今日にお前やっぱ馬鹿だな、とにからかうように言った。
どうしたのかとシリウスを見ると、つまらなさそうな呆れたような顔で窓の外を見る。
「お前らムカつくよな、もう」
「「は?何で」」
050313(あーもう気分が軽いからこんなんばっか。軽。)