>カ
リ
エ
ス
暇なときにカタカナ語辞典を捲っていたらカリエスという言葉を見つけたんだった。意味は忘れた。
何だか気に入ったので使いまくっていたらシリウスになんだそれお前インテリぶんなよって言われた。
あたしは悔しかったけど何も言い返せなかったので何も言い返さなかった。
ていうかそんな人の揚げ足ばっか取ってるといつかお前足元すくわれるぞ!(と言いたいけど言えない)
「は?何?何でこっち見 て る の」
「みっ見てない!」
「あーそうーじゃあもうこっちに顔向けるところから止めて」
「・・・」
「何」
「シリウス君・・あたしのこと嫌いだね」
「ああ」
「(即・答!)」
「だーもう俺部屋戻るわ」
「うるせえ黙って戻ってくださいね」
「何?前半と後半の言葉使いの違いは何?」
「細かいよ」
「あは、はっ」
あは、はっ。シリウスのこの全てに対して皮肉ぶったような笑い方があたしは大好きだった。
でもそんなこと言おうもんなら絶対にもうやめるとか言い出すんだあの男は。わー最低。
でもそんなシリウスのことが好きなあたしとかその他大勢の女の子はもっと最低。
「なあ」
「えー何?部屋戻ってなかったの」
「今から戻るんだよ」
「さっさと戻れば」
「お前も戻れよ」
「は、何故」
「だってお前こんなとこに独りかよ」
「・・・良いもん」
「は?もん?キモっ!」
「(げんなりだ)」
「なんだよその顔はよ」
「何でもございません」
シリウスは馬鹿じゃねえの、お前。と声に出していったが、あたしは彼が言う前から彼が何て言うのか分かっていた。
彼は唇を歪めて、あたしを馬鹿にするような顔をしたのだ。これで、分からない方がおかしい。
あたしは彼が予想通りの言葉を言ったのに少し満足して、ややいつもより甲高い声をたてて笑った。
談話室の壁は音を反射しないらしく、笑い声はふっと消えていった。あたしは、それを、魔法のようだと思った。
馬鹿じゃねえの、お前。というシリウスの台詞もとっくの昔に壁に吸い込まれて消えている。
「馬鹿だよー」
「あーはい知ってるから」
「シリウス君が苛めるから泣きそうです」
「さっきからキモいっつの」
「神様・・」
「聞けよ」
「聞いてるよ」
「無視かよ。余計悪いだろ」
「だってさあ、キモイって言われ慣れて、反応が思いつかない」
あ、そうだっけ?とシリウスは怪訝そうな顔をして頭をかいた。整髪料の匂いが鼻をつく。
あたしはそれを胸いっぱいに吸い込んだ。胸いっぱいに。シリウスは気付かずにいる。
気付かれないようにしているわけでもないけど、気付くはずも無い。注意散漫。アウト・オブ・眼中。
所詮はキモイと言われ慣れた女ですよ。あーはいはい。と、とにもかくにも分かっている事ばかりである。
分かりたくなくて分かっているのでもなく、それはただ事実としてそこにある為。眼中外な、あたし。
「やっぱり君はアレかね、たっくさんの女の子と遊んだりしてるのかい?」
「お前は、どこの中年だよ」
「先生、君の将来が心配・・」
「心配される筋合いなんてねえよ」
「あるのよ」
「あ、っそ」
言ってしまった後で後悔したのだ。彼にあたしから心配される筋合いなど、確かにないのであろうから。
筋合いもないし必要も無いし、むしろ迷惑なのかもしれない。勿論、そこまでは分からないのだが。
「前言・撤回」
「は?」
「筋合い、無いよね。確かに」
「あ、っそ」
「うん」
「寂しいなー」
「寂しい?」
「心配してくんないわけ」
「あんたの心配、する筋合いないからね」
「さっきと180度違わねえ?」
「まーね」
「寂しいなー」
「はいはい」
フラッシュバックした。シリウスと、その周りを取り囲んでいる女の子たちの映像だ。
いつのことなのか思い出せない。ていうか、いつでもそうだから、いつなのか分からないだけだ。
ああ、全く、腹が立つ。
しかしあたしはあの女の子たち、周りを取り囲んでるあれを、小馬鹿にしていたことを謝らなくてはならないだろう。
あんな風にシリウスに媚びるなんて、全く馬鹿馬鹿しいと思っていたが、根本はあたしと同じなのだ。
むしろあの方が素直で良いかもしれない。現にあの中でもうまく立ち回った何人かは、シリウスの寵愛を受けているのだから。どっかの王かよこいつ。まあいいや。
昔はそんな想われかたなど真っ平だと思っていたが、案外彼女たちは、幸せに見えるのだ。
そうなるとあたしがまるで不幸せなようで、どうせキモイと言われて慣れている女だと。まあ仕方ない、それが事実だ。
「もう寝ようね、シリウス君、また明日ね」
「なんか馬鹿にしてねえ?」
「してないよ」
「嘘吐けよ」
「嘘なんて吐いてないもん」
「うわキモッ」
「あはは、慣れたね」
あははは。あたしの笑い声が聞こえる。思い出したくないフラッシュバック。笑い声。
少しおかしな夜には、つきものなのだ。
シリウスがおかしな顔であたしを見ている。おかしなシリウスの顔。おかしな夜。甲高い笑い声。
ありきたりのおかしな夜。シリウスがあたしの頬に触れる。あたしは、びくりと身を引いた。
「うわ、何」
「何で」
「何」
「泣いてるわけ」
「え?嘘だ、泣いてないよ」
「鏡見ろよ、凄い不細工だぞ」
「わぁ見たくない」
「何でだよ」
「泣いてないよ」
あたしの頬を拭った彼の指には透明な水滴がついていたのでした。彼はそれを舐めて塩辛いと言い。
あたしもまねをして自分の頬にたまっている水を舐めてみて、やはり、塩辛かった。
目から塩分を含んだ水が垂れ流される事を泣いているというなら、これは確かにその通り。あははは。
ありきたりのおかしな夜に何かが狂う。あたしが泣き出す。全く、理想的状況である。最低。
「泣くなよ」
「あたしキモイって言われ慣れてる女だから」
「はあ?」
「あんたいつもみたいに不細工だなお前って言えばいいんだよ」
「はあ?」
「そうだよ、それでいいんだよ色男」
「ー!」
俺、(彼の一人称は俺である)
お前のこと、(お前とは即ち。今ここにはあたししか居ない)
大事よ?(important?valuable?precious?love?)
「何もう一回言って」
「嫌。」
040516(ノリですってば。あ、あれ?ごめんなさ)