魔 法
その日、魔法使いだらけのある学校のある部屋で、ある魔法が行使された。
がちゃん、ばりっ。
「あ」
「ああー!」
大きく、欠けた。花瓶の一部を手にとってあたしは叫んだ。その前に間抜けな声を発したのは、リーマスだ。
踏んだり蹴ったりで笑い話にもならない。何で罰掃除を真面目にやっててこんな目に合わないといけないんだ。
そうあたしが勢い込んで言うとリーマスは、罰掃除だって時点で真面目じゃないしねえ、と笑って言った。
何だかそのやたらに落ち着いた態度にムカついたが、もちろんその通りだと思うほかないのだった。
しかしそれは解決にはならないというのもまた、あたしには(多分リーマスにも)分かっていた。
「ど、どうしましょうか・・」
「さあ」
「ぎゃー冷たい!」
「冬だしね」
「違う!そうじゃなくて」
「何が?」
「貴方の心が」
「あーもうそろそろ終わりかも僕」
「ちょ!ちょっと待ってくださいお兄さん!」
リーマスはくすくすと笑って、冗談だよ、と言った。そりゃ当たり前だ、と言うのもおかしな話だが、
これで本気だったら本当に踏んだり蹴ったりだ。あたしはもうきっと生きていけない(大げさか)
それにしても花瓶は大きく欠けていて、誤魔化せそうにはない。細かく割れていてもフィルチは誤魔化せないが。
その花瓶を見ているとだんだん腹が立ってきた。こんなの、誰が、使ってるって言うんだ。
思えば最初からこれは空だったのだし、水も入っていなかったし、花なんてこの近くにはどこにもないのだ。
ここはフィルチの部屋だから、花がないのは当たり前なのだが。これからも、きっと無いと思うのだが。
そして何で今日に限ってトロフィールームとかで磨くのじゃなくてフィルチの部屋なんだろうか。
こんな隙だらけに部屋さらしてあのじいさんついにボケたんじゃないか、とリーマスに言ってみたら、
後で何かあさってみようかと真顔で返されて笑えた。さすがだね、と言ったらあっちも笑った。
それにしても花瓶は大きく欠けていて、誰も使ってないだろうと思って、前もこんな事が、有った気がする。
「ねえリーマス」
「ん?」
「前も花瓶割った事あったっけ?」
「僕は無いよ」
「そっか」
「シリウスがあるけど」
「うーん、知らないやそれ。何でだろ」
「どうしたの?」
「いや・・騎射場?」
「・・・」
「ああ・・デジャヴ?」
「(さっきとだいぶ違わないか?)」
「何その顔は」
「いや別に」
リーマスはおかしそうに少し口の端を持ち上げた。こんな笑い方をするのは、一部の前でだけだ。
それが今あたしの前でなされていると言う事は、あたしをとても幸せな気分にさせた。
あたしが幸せだろうと、花瓶は割れているのだが。もう、放っとこうか(それはさすがに駄目だろうな)
あ
「あ、そうだそうだ」
「ん?」
「思い出したよ」
「聞いてあげても良いよ?」
「・・・」
「ぜひお願いしますさん」
「はははまあそこまで言うなら!ね!」
「(おもしろいな)」
「何その顔は」
「いや別に」
リーマスは口元を押さえている。でも肩が震えている。笑いをこらえているのだと誰にでも分かる、あたしにも。
彼を笑わせる事はあたしにとってとても素晴らしいことだったが、そんなこと、彼は多分知らない。
しばらくおかしそうなリーマスを幸せな気分で眺めてから、あたしはやっと口を開いた。
それは小学生の頃の話です。あたしはまだ日本に居ました。教室で、花瓶を割りました。
でも誰も使ってなかったんですよそれ。そして誰も周りに居なかったんですよあたしが割った時。
だからあたしはそれを放っときました。誰か気付いたら、謝ろうと思っていました。でも誰も、
先生も気付きませんでした。そしてあたしはそのまま、転校してしまいました。最後まで気付かれずに。
「それで終わり?」
「うん」
「良かったね、バレなくて」
「・・うーん」
「良くないの?」
「良いけど」
「良心が痛む?」
「うーん、そこまでないかな」
あたしはそう言って、リーマスから目を逸らした。最初から見ていなかったのかもしれない。
あたしの意識は、あの割れた花瓶のとこまでトリップしていたから(ああ危ない危ない)
誰も使わないで、教室の片隅で忘れ去られて、そのままあたしなんかに割られてしまった、花瓶のところまで。
そうそんな、大したことじゃないんだ。あたしに良心なんてものは、中途半端にしか存在しないから。
でもきっとほとんどの人はそうなんだろう。それともあたしがそう解釈しているだけなんだろうか。
リーマスは、違うけど。でも、リーマスは特別だから。あたしにとっていろんな意味でそうだから。
でもどうなんだろうか。彼は悪戯とかをするから、そういうのに対する良心は無いのかもしれない。
良心が痛むタイプなら、こんなところで罰掃除なんかやらされてないだろうと思う。
でもやっぱり、何か、すっきりしない。あの後あの哀れな花瓶は、どうなったんだろうか。
あたしが少しだけ考えていると、リーマスはあたしを覗き込んで言った。
「もしかしてトラウマ?」
「いやそんなこともないけど」
リーマスは肩をすくめて、あたしの言った事をあっさりと無視した。のトラウマ、治してあげるよ。
「無視かい」
「んー?」
「もう良いよ・・」
「まあ見てて」
杖を取り出して軽く花瓶の破片を叩く。それはとても簡単に、元に戻った。
リーマスはその花瓶を元の位置に置いた。何も変わらなかった。寸分の狂いも無い、魔法。
「ああその手があったか!」
「気付いてなかったの?」
「便利だー」
「何言ってんの・・!馬鹿・・!」
「うわ!今日のリーマスときたらもう!」
「ゴメン・・でも・・ぶっは・・」
「もう良いよ・・好きなだけ笑って・・」
「あっはははははは、あはははは!」
「(ああ畜生!)」
簡単に、とても簡単にあたしの嫌な思い出と執着は霧散した。
ただ懐かしんで笑いたくなってくる。リーマスはいつもあたしに、そんな魔法を使う。
あの頃あたしがその魔法を知ってたら、割れた花瓶を放っとかなかったんじゃないだろうか。
031129(微妙だなぁー)