充 填 率 七 拾 %










空は今日も快晴です。昨日もそうでした。故郷ではもう台風の季節。
あの後は空気が晴れやかです。きっと台風が穢い空気を連れて行くのでしょう。
そして海の果てまで進んで、太陽に焼かれて空へと 逝ってしまうのだろう。








「起きてる?」
「寝てないよ」



リーマスはちらりと笑い、身体を起こした。窓から差し込んできていた光が遮られる。
あたしはそれを少し寂しく思いながら、もう眩しくないのに目を細めた。
リーマスはそれを見てまた笑い、眠たそうだね、とからかうように言った。真意は判らないが。


「そんなことは、ないけど」
「顔が眠そうなんだよは」
「ああ、うん…?」
「いつも」
「ん?これは、馬鹿にされてると解釈してオッケー?」
「あはは」
「笑うなー」
「………」
「…いや、まじめな顔をすれば、良いって訳でもないんだよ?」



リーマスは楽しそうに笑った。この人、笑ってばっかりだ。
でもリーマスが笑うとあたしも何だか幸せだから、別に構わない。むしろ大歓迎。


「笑えー」
「は?」
「リーマスが笑ってるとあたしも嬉しいよって意味」
「分かる訳無いし」
「以心伝心万歳」
「出来てないから」
「ナイスなツッコミだことで…」
「まあね。経験だね経験」
「なるほど、どんだけ無駄な青春を送ってきたかが窺えるコメントでした。スタジオにお返ししまーす」
「はいこちらスタジオでーす」
「馬っ、鹿!」
「君もね」
「そうねえ」
「はは、ばあさんくさい」
「む、一言多いよ」


リーマスはやっぱり笑っていた。あたしは満足な気分で寝そべっている布団に顔をうずめる。煙草臭い。
嫌な気分ですぐ顔を上げた。まだ微かに鼻の奥に残る煙草の匂いは、苦手ではないが、嫌いだ。


「これは…奴だね。ブラック」
「ご名答」
「くさいなー…」
「そんなこと言ったらファンが泣くよ」
「泣かないね。キレるね」
「あはは」
「うーん、笑い事じゃないかも」
「ていうかシリウスのベッドで寝てるって時点で嬲り殺し決定だね」
「な、嬲り殺しって!」


あたしは文句を言いながらも起き上がった。実際、そんな気がしたからだ。
ブラックのファンに殺されるなんて、有り得そうなのがまた嫌なんだけど、死んでも死にきれない。
そんな死に様を晒したら故郷の父さん母さんに面目も立たないような気がするけど別に関係ないかも。


立ち上がる。靴はベッドの脇に置いたままなので床がひやりとして気持ちよかった。
立ち上がってから少し悩む。どこに座れば良いのだろうか。どこに座ったところで、やっぱり怖い。


「うあー…何だこの部屋…」
「何って、寝室?」
「座れない…」
「座れば良いじゃないか」
「だからー…って何笑ってんの」
が笑えって言ったし」
「ああ、そうか…」
「面白いし」
「災難なのにあたしは」


ジェームズにリリーと2人きりになりたいから部屋を出て行けと言われたのが10分ほど前。
あまりに邪魔者扱いされたから、先生に言いつけるぞ!と呟きながら部屋を出た。言ってないけど。



どうしようもないのでとりあえず立っとくことにした(ほんとうにどうしようもない



「ねー
「何?」
「シリウスのこと嫌い?」
「別に…なんで」
「何となく」
「嫌いじゃないよ。苦手でもないし。普通」
「そう…苗字で呼ぶから」
「え?親しくないもん」
「そうだけどさ」
「リーマスだってリリーのことついこないだまでエディンスさんて言ってた」
「あー…ジェームズに殴られた」
「うわあ」
「殴り返した」
「うわあ」


リーマスは楽しそうに笑いながらその時の様子を語り始める。
ジェームズが頭をはたいたのに何か頭に来たから突き返したらやり返されてもう永久に終わらないかと
思ったんだけどエディ…じゃないリリーが止めに入ったんで

「あ、今エディンズって言おうとしたね」
「…」
「ははは」
「リリーね、リリー」
「あはは」


リーマスはにこりととても綺麗に笑って、は笑ってばっかりだね、と言った。こっちの台詞だ。


「リーマスこそ」
「え、そう?」
「そうだよ」
「愛想笑いだよそんなの」
「え、そうなの」
「うん」
「今も?」
「え?」
「今も、愛想笑い?そんなの、しなくていいよ」



微笑んでいたリーマスは驚いた顔をして、あたしは何となく口ごもってしまった。
それからしばらくして、彼はごくゆっくりと口を開く。あたしは何故か口の中がカラカラになっていた。



「うーん、それは、違うね」
「そ、そっか」
「うん」
「なら良かった」
「あー、笑ってる?」
「うん?」
「今とか…僕、笑ってる?」
「うん」
「ああ、そう」
「自覚なしかあ。病気だね」
「うん」
「え、冗談だよ」
「この病気には名前もあるんだよ…」
「え?」
「何でもない」
「…うーん、さてはダレてきたね?」
「ていうかあの人いつ戻ってくるわけ」
「誰?」
「ジェームズの奴」
「さあ…」
はエd」
「あ、またでたエディンス」
「…リリー、が心配じゃないわけ」
「別に」
「冷たいね」
「だってラブラブだしねあいつらね」
「ああ」
「あたしなんて完璧に邪魔者扱いだよ」
「ああ」
「納得しないで…」
「あはは」


あたしがさっき目を細めたのはリーマスの笑ってるところがもっとよく見たかったかもしれない。
また笑ってるよ。笑ってばっかだなあこの人。そんなの、大歓迎だよ。


「三段論法だよリーマス」
「何急にインテリぶってんの?」
「リーマスが笑ってるとあたしも笑えて、だからあたしいつも笑ってるってリーマスは思うんでしょ」
「僕の方が、そうなんだけど」
「えっ…説明がつかなくなっちゃったよ」
「あはは」
「はは、まー笑いたいから笑うのか」
「良いんじゃない、それで」


良いのかも。むしろ、大歓迎。あたしは良い気分で手近な椅子に座った。
「げっ煙草くさっ!」
ブラックの椅子だった。



「嫌な部屋…」
「あはは」
「笑い事じゃないよー」
「ファンに絡まれてたら…」
「助けて」
「お葬式には行ってあげるからね」
「嫌だこの人…」



あたしは文句を言いながらも立ち上がった。煙草の香り、全然嫌じゃなかった。
もう、立ってれば良いや。笑いがこみ上げてくる。笑ってるリーマスを見てると。
何でもいいような気がしてきた。あたしの方が、病気なのかもしれない。きっと。

充填されてくる温かさを感じながら、あたしはひとりで静かに目を閉じた。
リーマスが、しょうがないから僕の椅子貸してあげる。座れば?と言った。ああ、可笑しい。
















041016(はいはいはい。あれですね意味は無いよ雰囲気だよ)(言い切った…