(3部作の予定。2個目でシリウス殺すんでシリウスは死んでねーと信じている乙女は読まないで下さい)
(ていうか私も死んだとか信じません)
(あと名前変換ない上にこんなの明らかに夢じゃないです。すいません)






dreaming prisoner
それは夢か幻か狂気の予兆か












イノセントな君に贈る。











「え」



俺が驚いたのは、いつのまにか外にいたからでも、いつのまにかボロボロの臭い囚人服から着替えていたからでもない。
明るかったからだ、外が。こんなにも、明るいのだと。もう俺は、忘れていたんだな、と。



俺は道路の真ん中に独りで立っていた。着ているのはお気に入りの普段着だった。
着慣れていたはずなのに、もう懐かしかった。長い間ボーダーの囚人服に縛られていたから。
懐かしい感触と、香りがした。お気に入りの煙草のにおい。
俺は自分のシャツに顔を当て、息を吸い込んだ。何だかひどく幸せで、
でもそれがすぐに終わるでろう事も分かっていたから、ひどく、不幸せだった。



俺は歩き始めた。目的地があるわけでもなかったが、幸せなうちに、外を感じたかった。
足元の道は茶色い砂で、そんなものまで懐かしくて、いとおしかった。
靴を脱いで、靴下も脱いだ。冷たい土の感触が、心地良い。
俺は鼻歌を歌いながら歩き続けた。きっとそのうち誰かが俺を見つけて、引き戻すはずだった。
それまで、少しの間だけでも、神様、俺に自由を。


そう思って俺は十字を切った。珍しいことだった。困った時の神頼みって奴だ。
まあ、信心深い人間も助からないってのに、俺みたいな奴が助かるはずも無い。
ていうか神様なんて居ないんだろ?もしいるなら、どうして俺をあんなところに?
適当に生きていた俺への罰なのか?適当に、親友のために、自分は、どうでもいいかなって。思ってたよ。







目を閉じれば今も幸せな頃がよみがえって。それは俺を辛くさせるだけだ。







「あら」



聞きなれない声がした。俺は振り向いた。ついに引き戻されるのか、現実に。そう思った。
無表情を装っていたが、泣きたいほど嫌だった。現実は余りに辛すぎて、此処は、余りにのどかだ。


「あなた、見かけない人ね」
「ああ、だろうな」
「どこから来たの?」
「アズカバン」



振り返った先にいたのは綺麗な漆黒の髪とこげ茶色の瞳を持った女だった。
アズカバンと聞いて少し顔を引き攣らせているが、かなりの、いやとても美人だ。好みだ。
でも今はそんなこと言ってる場合じゃない。俺はまだ、帰りたくないんだが。



「俺、まだ帰りたくないんだけど」
「アズカバンに?それは、そうよね」
「ここにいたい」
「ずっと、ここにいたいの?」
「ああ、そうだ」
「知っているかしら?」
「知らねえよ」
「あはは、まだ、何も言ってないじゃない」
「そうか」



女は愉快そうに甲高い声で笑ったが、意外に耳障りではなかった。
でもそれはどことなく狂気を帯びているような笑い声で、恐らくそれは、俺が狂ってきてるからだろう。
左右の町並みはとてものどかで、馬鹿馬鹿しかった。それなのに、誰も居ない。



「ここから帰らない人のことを、狂人と言うのよ」
「嘘吐けよ」
「現実に戻らないってことだから」
「あっそう。なら俺は、」
「やり残したことは?」
「………それは」



なら俺は、の後に、何て続けようとした?狂人になりたい、と?


一瞬、彼女はとても真剣な顔をしたと思った。俺は息を呑んだ。めまいがした。
どうやらそれは気のせいのようで、女はまた甲高い妙な声で愉快そうに笑い始めた。
俺を嘲笑っているかのようで、でもそれを否定できなくて、腹が立つ。



「黙れ!」



自分の声がヒステリックに聞こえたのは、これが初めてだった。ああ、俺、カッコ悪。そう思って、息を整えた。




「分かったわよ」



方で息をしている俺を冷めた顔で見下ろして、女は、道の脇に建っている家へと帰っていった。
俺はそれを横目で追い、女は振り返らなかった。俺の人気も、地に落ちたもんだ。


俺は取り残されて、茶色の土を見下ろしたまま、ぜえぜえと耳障りな息をした。
楽しかった気分が、ぶち壊しだ。冷たい土も、うっとうしい。


ああ、そうか。帰らないと。


こんなところとはおさらばだ。俺は、帰らなくちゃならない。たとえそれが生き地獄でも。
何のため?俺、適当に生きてるんだ、神様。親友第一だから。自分のこと、結構どうでもいい。
俺を守って狂ってる場合じゃない。帰って、やらなきゃいけないことがあるんだ。


守らなきゃならないのは、俺じゃなくて、あいつの、あいつらの大切な、だって俺、名付け親だし。




「ねえ、そこのかっこいいお兄さん」


「…なんだよ」



顔を上げると、さっきの女が手に両手に何かを持って家から出てきていた。
左手持っているものを俺の目の前に掲げる。白い陶製のマグカップだった。


「飲みなさい」
「はぁ?」
「良いから飲んでよ」
「嫌だ」
「毒じゃないわ」
「信用できない。俺は、死ねない」



女はとても嬉しそうに笑い、あたしあなたのこと好きよ。とっとと帰ってしまえ、と言った。意味不明だ。


「死ねないと思っている人間は、死なないものよ」
「あっそう。じゃあ俺のことは放っといてくれ。お前がウザいから気が変わった。俺は出る方法を考える」
「目を覚ませばいいのよ」
「…あっそう」
「でもその前に飲んで。お願いだから」



女は長い睫毛を驚いたようにしばたたかせ、それから、眉を寄せて懇願するような顔つきになった。
俺はしばらく黙って、それから溜息を吐いた。どうも、女の頼みごとには弱い。


「はい」



手渡されたマグカップの中身を見て、俺はまた顔をしかめた。甘ったるい香りがした。
リーマスの顔が浮かんだ。ココアだった。俺が嫌いなのを知ってて、いつも隣で飲んでいた。
でもあいつは、俺を裏切るなんて絶対にしなかった。まったく俺は、とんでもない間違いを犯したものだ。
思い出すと、申し訳なくて、腹が立って、情けなくて、どうしようもなくて。視界がぼやけた。


「飲んでよ」
「俺、嫌いなんだよ」
「じゃあチョコレート食べさせるわよ」
「嫌だ!何だよお前、リーマスの手先か!?」
「誰よそれ…」
「ヒミツだ」
「…あたしは、お菓子会社の手先じゃないわ」
「ああ嫌だ、甘そうだ…」
「文句言ってないで飲む飲む!」



俺が息を止めてココアを喉に流し込むのを横目で睨みながら、女は右手に持っていた紙を広げた。
なにやら難しそうなことが書いてある。視界がぼやけていて、読めない。


「これはあたしの研究成果」
「ぎゃーまずっ!甘っ!」
「勿体ないなぁもう…」
「は?何?俺もう流し込むのに必死で、聞いてなかったんだけど」
「詳細に説明したいけど、時間が無いわ」
「何でだよ」
「そんな気がするのよ。チャンスは、今よ」
「はあ?」
「よく聞いてね、手短にいくわ。吸魂鬼は動物の心は読み取りにくい。以上」
「短いなほんとに」
「何よ良いじゃない役立つ知識よ」
「そうなのか?」
「そうよ」
「何を根拠に、お前そんな」
「さあ?役立つと思うから、あなたに教えるのよ」
「あっそう」
「そうよ」



女は嬉しそうに笑い、あなたの成功を祈ってるわ、と言った。
俺は理由を聞こうと思って口を開いて、


















「あ」



俺が驚いたのは、いつのまにか独房にいたからでも、いつのまにかボロボロの臭い囚人服に包まれていたからでもない。
暗かったからだ、こんなにも、暗いのか。俺は、泣きたくなった。あの人に、会いたい。



俺は独房の真ん中に独りで座っていた。着ているのはもう着慣れている囚人服だった。
着慣れていたはずなのに、もううっとうしかった。煙草のにおいを、嗅ぎたかった。
ふといつもとは違う香りがしたような気がして、俺はダサい囚人服を見下ろした。
汚いと思いながら、服に顔を当て、息を吸い込んだ。甘ったるい香りがした。


俺はただ夢を見ていたんだと、よくあることだと、片付けてしまうには鮮明すぎて。
何故か少し元気だった。ココアを飲んだからだろうか。あれは、夢じゃないのか。
でも独りで座っていると気持ちが揺らいできて、ただ正気を失いかけているだけかと、泣きそうになった。



『帰ってしまえ』


嬉しそうな女の顔が脳裏に浮かぶ。そうだ、俺は、帰ってきたんだ。狂う前に、彼女が、俺を帰した。
狂いそうな現実に。残酷だけど、俺は、帰らなきゃならなかったから。死ねなかったから。
俺を、殺す事なんて、まだ出来なかったから。まだ。






キイ、と細い音がして、顔を上げると吸魂鬼が俺に餌を与えようと少しだけ格子を空けたところだった。
やせ細った今の俺ならば、すり抜けられそうだった。あの醜い手に掴まれることを恐れなければ。
どうすればいい?


『吸魂鬼は動物の感情を読み取りにくい。以上。』


へえ、そうか。役立つ知識だな、ほんと。
これ以上犬に変身する気力なんて無いと思っていたが、身体の奥が暖かくて、何とかなりそうだった。
ココアを飲んだからだろうか。




















040802(こうあれだよ勝手なこと妄想してんじゃねえよって感じ。それ言うなら全部だけど。ほんとすいません。でもさーシリウスが突然吸魂鬼は動物の感情を読み取りにくいとか気づいたのは何でだろー知ってたならもっと早くに脱出したかもよーとか思って)(勝手に)