___COLD SPRING___













我侭なあたしは苦しくて切なくて何もかもつまらなくて、そんな時は窓辺でぼんやりと彼のことばかり考える。そうしていると彼がやってきてあたしの隣に立つけれど、それは運命でも何でもなくて、ただ彼はあたしの友達なので。あ、あたしは彼のことがとても大切です。



「なにそれ」
「何って?」
「なにそのもこもこしたの」
「け、毛皮じゃないよ!」
「違うの?なんだー」
「そのほうが良かったの?」
「え?別に…あーでも面白いかもね毛皮のマフラー」
「ふうん、そっか…」
「え、なに?」
「いやリーマスのことだから、毛皮とか着てたら、残虐!って言うのかと」
「なにそれ…僕どこの国の人なわけ」
「言いそうだよ」
「言わないよ」
「言うって」
「言いません」
「ふうん?…毛皮でしたー、実は」
「…うわ残虐ー」
「あはは」


あたしが笑うとリーマスもへらりと笑って、あたしの巻いていたもこもこした(と彼が形容するとそれはそれは可愛く、あたしには聞こえた。)マフラーを少し引っ張った。首絞まる!と呻くと、ああそうだろうね、とにこにこしながら言われた。そして彼はすぐに手を離して、まるで興味を失ってしまったかのように遠くを眺める。あたしは自分に舌打ちを漏らす。馬鹿な事をした、全く。リーマスがもっとあたしの持ち物に触れていてくれるチャンスだったのに。そう気色悪いことを考えるとますます可笑しくなって少し笑った。


「…なに笑ってるの?」
「べっつにー」
「うんまあ、良かった」
「え?」
「さっきまで、何か落ち込んでたでしょ」
「…え、嘘、え、そう!?」
「いや知らないけどね」
「な、なんだそれ…」
「なんとなくね」
「なんとなくか」
「そ」



あたしは幸せな気分で目を細めて、彼の履き古した靴を見ていた。するとリーマスは、きみはきみのこいびととうまくいっていないのかい?と突如言い出したので、あたしにはそれはまるで遠い異国の言葉のように聞こえた。まあ、実際異国なんだけど。あたしは目を白黒させてリーマスを眺め、彼は目を逸らして困った顔で微笑んだ。


「よく分かるねー」
「まあね」
「なんとなく?」
「あはは、そう、なんとなく」
「うまくいって、ない、かな」
「そっか」


リーマスは少し申し訳無さそうな顔をしたような気がした。多分それはあれだ。あたしの今のコイビト(ああ何て寒々しい響きなんだろう。)をあたしに紹介して、彼すごく良い人だから話聞いてあげて、とあたしに伝えやがりになったのが、他の誰でも無くリーマスだからだ。ちょっと、いや、かなり、死ねこのやろう、って思った。でもそんなの伝わって無いから仕方が無い。


「リーマスのせいじゃないよ」
「別に僕のせいだなんて言って無いじゃないか」
「う、まあ、そうだね…」
「思ってたけどね」
「思ってたのかよ」
「うん」
「じゃ、素直に受け取ってよ」
「僕のせいじゃないって?」
「…あー、撤回」
「え?」
「リーマスのせいだね」
「うーん…ごめん」


彼は困った顔で頷いた。あたしはそれを見て少し笑った。勘違いが生じている。あたしが彼のせいだと思っている内容と、彼が自分のせいだと思っている内容は、似ているけれど根本的に違うものだ。そう思うと無性に可笑しかった。それから、哀しかった。

うそだよ、そう言うとリーマスはただ目を伏せただけだった。彼にうそをついたのは、今と、それから、君が紹介した彼を好きになっても良いよとリーマスに伝えたあのときと、二度くらいだ。でも本当のことも、彼には伝えていない。臆病者だと笑われても仕方が無いが、あたしは彼がとても大切でしょうがないのだ。彼の温度が隣から完全に消えてしまうのが、一番怖い。


「あたし、あんまりリーマスに嘘ついたこと無いよ」
「何、急に」
「今までに2回しかない」
「そっか…」
「すごいね、偉いあたし」
「ごめん」
「何で?」
「何だかね、嘘ばっかりついてるから、僕」
「そうなの?」
「そうだよ」
「ふうん…そっか、分かった。うん、良いよ」
「良いんだ」
「うん、良いんだ」
「…そっか」
「あー腹減ったなリーマス!」
「え、僕は別に」
「いやいやノってよ!」
「あはは」
「良いですよ…」
「じゃあこれあげるよ」


リーマスは左ポケットからピンク色の銀紙に包まれた物体を取り出した。たぶんチョコレートだと思う、ってか、絶対。それをあたしの手に持たせると、じゃあほら頑張ってきてね、と彼は言う。あー、やっぱそういうことか。おせっかいだなあ。あたしは顔の筋肉を笑顔の形に持ち込む。いったいどこまで残酷なんだろうか、この男は。死んじゃえ。でもそんなの伝わって無いから仕方が無い。


「頑張るって…」
「喧嘩したんでしょ?早く仲直りしてね」
「いや、うんまあ、倦怠期?」
「早いって」
「愛が足りなくてえへへ」
「え、そうかなあ」
「…や、あたしのね…」
「え?」
「いーや何でも…うん頑張ります自分!」


彼はにこりと笑ってあたしの頭を数度軽く叩いた。叩かれたところだけ暖かくなるような気がした。心の底の方にはつめたさが澱の様に沈み込んでいても。彼は確かにあたしのことを想い、あたしを慰めて、チョコレートをくれて、撫でてくれて、あたしを見て笑ったのだ。そう考えるとあたしの頬は暖かくなる。しかしその温度差は、それはそれはひどいものだ。



「リーマスはすきなひととかいないの?」
「いないよ」
「ふうん」
「僕は自分が好きだからね」
「げ!きも!」
「あはは冗談だよ」
「冗談に聞こえない」
「あはは」
「あ、いつかすきなひと出来ても、応援しないからね」
「そうなの?ひどいなあ」
「どっちがひどいんだバーカ!」
「?」


眉をひそめるリーマスを残してあたしは走ってその場を去った。深く考えられると困る。振り返ると彼はまるで興味を失ったような顔をしてどこかを見ていたが、あたしの視線に気付き顔をこちらに向けた。あたしはにかりと笑って見せる。彼は微笑んで手を振る。いっておいで、ってことだろうなあ。ああ、全く。でも貴方がそう言うなら、あたしは行こう。



中途半端に優しくされるくらいなら構われない方が良いなんて、一体全体何処の誰が云ったのだろう。あたしだったら、彼の所作から滲み出る優しさの欠片でもあたしに触れたならば、一日微笑んで過す事が出来る。たとえ其の欠片が一瞬の気紛れに過ぎなかったとしても、だ。つめたさとあたたかさは並在する事が出来るのだと、あたしは知る様になっている。残酷でも彼は優しいのであって、こんな形でもあたしは確かに、恋をしているのだ。どうしようもなく。




















051203(リーマスは人の落ち込みには鋭くても好意には疎そうだなあとか全部妄想なんで割とどうでもいいね。切ない話が書きたいのにあんま切なくねーアホだー!っつか彼かわいそー!)