クリア--so clear for me--sky and he--
後に何も残されなくても、あたしは憧れる。そして堪らなく、欲する。















こんなあたしでも、冬の空は、冷たくも澄んでいると思うのだ。











「あたしに出来る事、ある?」
「もう十分!」
「感謝してくれろ」
「ありがとーありがとーう!最高!」
「へへへ」
「・・じゃ、じゃあ、行って来る」
「うん」
「・・・・・・・・」
「さっさ行け!」
「だ、だっ、ちょ、心の準備が・・」
「今さら何!男でしょ!」
「い、いや実は」
「ふざけてる場合か」
「・・・」
「そんなさぁ、キャラ違うことしないでよ」




ジェームズはそれでも情けない顔のまま肩を落とした。
いつもの自信は何処へ行ったのだろうか。今の彼にはかけらも無い。


これだけ変わってしまう彼を見るのは珍しい。彼をこんな風にしてしまうのは一つのことだけだ。
あたしにはどうしようもないのだ。だからただ、安心させるようにと微笑んで口を開いた。




「平気だよ、保証するよ」
・・!(じーん)」




ジェームズはひどく嬉しそうにあたしの名を呼んだ。彼はいつも宝物のようにあたしの名を呼ぶ。
それはもしかしたら誰に対してもそうなのかもしれないが、あたしはそれが嬉しくて仕方ない。
頼まれても無いのに、さらに彼のために尽くすことにした。まったくもって、損な役回りだ。





「そうだ、うん。おまじないをしよう」
「へ?」
「悪い事があったら、良いこともあるって言うでしょ」
「ああうん、まあ」
「それを逆利用みたいな」
「ふうん?」



ジェームズは首をかしげた。澄んだ綺麗な瞳が、不思議そうにあたしのことを見る。
あたしは少し笑ってしまった。もうすぐ彼がこんな風にあたしだけを見ることも、なくなるわけだ。




「はは、主席のくせに頭悪い」
「ぎゃー!気にしてるのにー!」
「嘘吐け。まあ良いや、それでね」
「うん」
「あたしが今から此処に立ってるから」
「・・?」
「寒いでしょ?」
「すっごく。やめときなよそっちが馬鹿じゃん」
「黙って最後まで聞け」
「はいすいません。もうほんと」
「良し良し。それで、まあ祈っとくから」
「祈る?」
「寒いけど我慢して、祈ってるから」
「偉いなぁ」
「意味分かってんの」
「よく分からん」
「あんたの為にさ、祈ってるの」




驚いた顔であたしのことをまじまじと見つめるジェームズに、あたしは笑いかけた。
いつも彼があたしに笑いかけるように、いつからか、あたしも彼に笑いかけるようになっていた。
しかしまあ彼があたしだけに笑いかけることも少なくなるだろう。それは、また別の問題だ。
そんなことより彼が失敗したり、駄目だったり、落ち込んだりするのを見るのがあたしは嫌だった。
想像もつかないと思っていたが、ここ最近の彼の様子から考えると十分有り得る。そしてそんなのは、嫌だ。




「それって」
「だから!さっさとやって、帰ってきて」
「・・玉砕前提?」
「違うって。報告に来いってこと」
「そりゃあ勿論!」
「うん。じゃ、それまで祈ってるからさ」
「な、何で」
「あたしが苦労すればその分、あんたにツキが向くかも」
「そうかなぁ」
「・・・」
「ほんとに?」



あたしは少し顔をしかめた。彼に見えるようにわざと。よくあることだった。


「分かってるよ気休めだってことくらい」



ジェームズは慌てて何かもごもごと口走った。こういうときの彼は、いつもと別人に見える。
あたしに対するときの彼は他に対する時の自信に満ち溢れた彼から一皮剥いだもののように思えるのだ。
そう考えるときあたしはいつも、満ち足りた嬉しい気分になる。言ったことは無いが。




「まあでもあたしの気持ちだと思って?」



申し訳なさそうに慌てる彼に、あたしはにこりと微笑んだ。用意しておいた、完全な笑顔だ。
彼に何時もそうしてもらっているように、あたしも彼を幸せに、とまではいかないかもしれない。
でもあたしに出来るだけ、それに近づけたいと思うのだ。ほんの僅かしか出来ないけれど。





しかし彼がひどく嬉しそうに行ってくると言ったのは事実で、あたしは寒い空気の中に立ち尽くした。










「あたしって、馬鹿みたい」






手に息を吹きかけると、それははっきりと白く目に写った。ただ寒々しいと思う。
それでもあたしはただ待っているだけだった。優しい彼はきっと急いで戻ってくるだろう。
彼はきっと上手くやるだろう。そんなこと分かっていたことだ。あたしにはずっと分かっていた。
でもあたしは心から、ひどく熱心に祈る。神様なんて、いるとは思わない。でも祈るしかない。









そう、確かにあたしは彼のために祈っているのだ。しかしそれは、どうか上手く行かない様に。
今までは頼まれるままに彼に協力していたが、それも彼に嫌われないために必死だっただけ。
そんな風にズルズルとやってきて、とうとう祈る事しか出来なくなってしまったが、それも性分だ。
あまりにも自分が醜くて、だんだん可哀相になってきた。それにしても、吐く息は白く、寒い。



彼はすぐに戻ってくるだろう。あたしはそれまで希望を捨てずに此処に立って居よう。
あたしの祈りは届いたかと彼に尋ねたら、顔を上気させて笑いながら、届いたよと答えるだろう。
その時あたしはひとり心の中で、届かなかった、と叫ぶのだ。聞こえはしない。絶対に。














ー!」
「お、早かったねジェームズ!どうだった?」




あたしは微笑みながら振り返り、陽気な台詞を吐く。どれもこれも、前々から用意していたものだ。
ジェームズの満面の笑みを見て胸が痛むのも予想の範疇だ。ああ、こんな自分、大嫌いだ。
せめて彼にはそんな、あたしの大嫌いなあたしを見せないで済むと良いと思う。損な役回りだ。




「エヴァンズさん、良いってさ!」
「あはは」
のおまじないが効いたんだ!」
「そんなことないよ、全然、本当に」
「そうだよ!」
「君の力さポッター君」
「誰だよ!」
「あはははは」











冬の空はこんなあたしが見ても、ひどく澄んでいると思うのだ。あたしの頭はまっしろだ。
こんな風にあたしも透明になれたら良いのに。身体が透明になって誰にも見えなくなるのも良い。



「ありがとう、
「あはは」
「笑い過ぎ」
「放っといてー」
「あはっははは!」
「キモい笑い方せんで!」
「幸せだー」
「そうか、良かったよ」
は?どう?」
「ん?あたし、は」




あんたが幸せならそれで良いのかもしれない。そんなのは綺麗事だけど、それしかないのだ。
欲を言うなら、ジェームズみたいに、透明な心が欲しい。まっしろな頭でそう思った。





でもあたし本当は、何が、欲しかったんだろう。澄んだ空が目にしみて、泣いてしまいそうだ。





































031225(ジェームズがキャラ的には一番好きです)