あの星を掴まえるまで★僕たちは眠れない
go!go!go!go!go!go! Don't stop if you want to live.









大嫌いな天文学の宿題をようやく済ませた時、時刻はもう真夜中すぎだった。
とりあえずひとつ欠伸をしてから、レポートを乱暴に丸める。
窓の外はもう恐らく真っ暗な事だろう。カーテンが掛かっているから見えないけど。
それにしても全く音が聞こえない。きっと、みんな寝ているからだろう。
ということは、この宿題が終わってなかったのは僕だけだったのか?恐ろしい事もあるものだ。
僕のためだけについていた明かりを眺めて、少しありがたいと思った。


荷物をまとめて、男子寮へと続く階段に足をかけてふと思う。そういえばこの明かりはどうやって消すのだろう。
いつもこんなに最後まで談話室に残った事は無かったから、さっぱり分からない。
魔法とかで自動で消えるのだろうか。そこまで便利なはずもない気がする。でも、どうすれば。
しばらく立ち止まって考える。だんだん眠くなってきた。
良い考えなど、浮かんでくるはずも無い。









「おーい」

誰かの声がする。幕の向こう側から聞こえてくるような、ぼやけた声だ。風邪でもひいているのだろうか。
その声は楽しそうに続けた。

「かぜひくよー」
「え」



いつのまにか閉じていた目を開けると、少し離れた位置に見慣れた顔が笑っていた。だ。
これは、つまり、いわゆる僕は居眠りという奴をしていたのだろうか。だとしたら、どこからが夢?
椅子で寝ているということは、レポートを書き終えて階段に足を掛けたのは夢だったのか?

「あ。やばい・・かも」
「え?何が?」


手元のレポートを見る。完成していた。


「うあー良かったそこまでは夢じゃなかった!」
「え、何の話?」
「いや・・レポート仕上げて、階段のとこまで行った筈なのに椅子に居るってことは、あれは夢だったのかと思って」
「ああそれはあたしが」
「へ」
「降りてきたら階段の前に倒れてたから、運んだ」
「・・え、うわ、それは、どうも」
「どういたしまして」
「寝不足なのかなぁ」
「現在進行形でね」


現在進行形か、確かにその通りだ。もうそろそろ寝たほうが良いだろう。


「どうもありがとう。じゃ、お休み」
「あ、うん」
「うん・・」


はソファに座って僕に手を振った。僕も手を振りかけて、やめた。何かがおかしい。


「・・え、、ここで何してるの?」
「え?えっ、いや別に」
「寝れば?」
「えっ?あ、うん、はは、そうしようかな」
「・・・」
「・・な、何?」
「別に・・」
「・・あ、そうだ!リーマスそれちょっと見せてくれない?」
「それって、レポート?」
「うんそれ」
「良いけど」
「どうも」


あからさまに話題を逸らされた気がするが、黙ってレポートを渡した。はそれを熱心に読む。
確か彼女は、天文学は得意だったはずだ。僕とは得意科目が逆なわけだ。
先生に採点されているような気分で、がレポートを読むのを眺める。
文字を追って視線が動いているのがやけに気になった。大したものとはとても思えないレポートだからだ。
ふと、の視線が止まった。もしかしてどこか間違ってるのか、と嫌な気分で身体を強張らせる。


「・・あ、あらーこれ違うよ」
「え。嘘」
「この星は、春先にはこういう風には動かないんだよ」
「えー。嘘だー」
「天文学さっぱりなくせに、何言ってんの」
「自分だって闇の魔術に対する防衛術、さっぱりじゃん」
「・・・・・」
「・・・」
「それは、今、関係ないでしょ」
「まあね」
「まあそういうわけ・・でもそれ以外はなかなか凄いね」
「何を偉そうに」
「なははは」


はおかしそうに笑いながら僕にレポートを返した。それを読み返して、なかなかの出来だと思う。
そう思うのはさっきにそう言われたからであって、別段何の根拠も無いのだが。
さっきに指摘された星を見ながら、そういう記述が教科書にあったかを思い出そうとした。
しかし、何も思い出せない。何故か赤帽鬼への対処法ばかりが頭に浮かんだ。物凄くどうでもいい。



「実はね」
「ん?」
「リーマスは、もう寝てると思ってたんだ」
「寝てたじゃん」
「いやあれは倒れてたと言う」
「そうとも言うけど、まあ寝てたじゃん」
「だからそういう意味じゃなくてさー、さっさと終わらせて寝室に戻ってると思ってたわけよ」
「かいかぶりすぎだね」
「うん」
「そんな即答で認めないで」
「でもまあ実際、ねえ」
「いや、レポートは終わってたんだよ?」
「あ、そっか・・」
「そうそうそれが重要」
「でもそこで力尽きたんだね」
「まあ、そういうこと」


はさっきの、僕が動きを間違えてレポートに書いている星の名前を指差した。怪訝に思いそれを見る。
はしばらく考えて、小さな声で呟いた。

「この星が」
「うん」
「今なら見れます」
「へえ、そうなんだ?」
「うん」
「よく知ってるね、そんなこと」
「まあねー!」
「馬鹿・・」
「うっさいわ。で、見に行かない?」
「・・どこに?」


思わずそんな事務的な台詞を口走ったのは、浮かれていたからに他ならない。
はそんな僕の心情を知らなさそうな顔でにこりと笑い、談話室の窓を指差した。


「そこ」
「・・・え、見えるの?」
「うん」
「・・・へえ」
「なっ、何か不満?」
「別に・・」
「ふーん・・でもさ、きっと見たら親近感湧くし」
「何で親近感が必要なんだ」
「それに、リーマスの書いてる時期の動きでは、あの方角には行かない」
「へえ、すごいね」


わかりやすいでしょ?と彼女はとても嬉しそうに笑った。
窓のところまで歩いて、カーテンを開ける。夜空は思いのほか明るかった。
たくさんの星たちが羅列している。はその中のひとつを指差した。


「あれだよ」
「ふうん」
「感動が足りないよ」
「だって他の星と見分けがつかない」
「あ、そっか・・」
「よく分かるよね、は」
「・・まあ、好きだから」
「星が?」


ちがうよ、とは呟いた。星は好きじゃない。
だったら一体何が好きなんだ、と言おうと思い口を開く直前に、は続けた。


「星の位置とか名前、覚えるのが」
「ふうん」
「リーマスはどう思うか、分からないけど」
「うん」
「あたしは、星って何だか見下してる感じがする」
「位置的に仕方ないし」
「・・ロマン無いね」
「まあね」
「それで、あたしちょっとでも近づいてやりたいわけ」
「星に?」
「うん」
「星に、ねえ」
「距離じゃなくて、たくさん知りたいってことなんだけど、分かる?」
「あんまり」
「・・素直だね」
「まあね」
「たくさん知ったら、近づけるような気がする」
「そういうものかなあ」
「・・・やっぱ、好きなだけかも単に」
「最初からそう言えばいいのに」
「でもさ、もっともっと、いろんなことを、知ろうじゃない」
「・・・うん」


見上げている間にも、いくつかの星がほんの少し動いた気がする。首が痛くなってきた。
言われてみれば、確かに見下されているといえない事も無いかもしれない。
近づくためには、知ることが必要なのだ。見下されているままでは終われない。


「ちょっとびっくりしたよ」
「何が?」
「リーマスがまだ談話室に居て、つか倒れてて」
「忘れて」
「この星のことをレポートに書くだろうから、見せてあげようと思って来た」
「そうなんだ・・ありがとう」
「どうせいないと思ってたけどね」
「それじゃ意味無いじゃん」
「でも来たかったんだよ」
「ふうん・・ありがとう」
「結局、居たしね。倒れて」
「忘れて」



はにこりと笑って、それだけでした、と言った。十分嬉しかったのだが。
レポートの間違っていた部分を書き直して、深く息をつく。もうあまり眠くも無かった。


、赤帽鬼の対処法、教えてあげるよ。お礼に」
「え、いや良いし」
「役に立つって」
「立つ日が来ない方が幸せだよ」
「赤帽鬼捕まえてみたいよね」
「・・そう?」
「うん」
「・・・リーマスのことが知れて、何よりだよ・・」





























040421(わけわかんない。いつもだけど)