アイデンティティ
それはきっと誰にでも必要なもので 無くなってしまう僕はどうしようもなくただ崩壊を眺めるだけで
ミスター・リドルの 場合 。
「やぁやぁ今日も美男子してるね★」
「・・・ふふふ」
「わぁーキモーい」
「死ねこのアマ」
「そっ、そんなこと言うひとだったのリドルはん・・!」
「ああそうだけど?そんなことより」
なにさ?と言ってはにこにこと笑った。
こういう馬鹿なヤツが僕は一番嫌いなはずだった。
人間そんな綺麗なものじゃないのに裏表の無いように笑うやつなんて、
ただ僕を苛立たせるだけだ。相手をするのも疲れる。
何も考えずに僕に良い名前だね、と言った時には殺してやろうかと思った位。
だがしかし、
優等生で良い人で監督生で特別功労賞な僕は仮面を被って相手をせざるを得ないのだ。
その仮面にもだまされて僕のことを良い人だと思っているんだろう。
本当に、本当に馬鹿なヤツだ。存在自体がものすごく頭にくる。が、まあ
僕はそんなこと一言も言わずにに付き合って下らなく喋っていた。
「何か用?」
「え、別に・・」
「そう。構わないけど」
「いやぁファンクラブの人たちが構うってば」
「・・・(じゃあ何で来るんだ)」
「今日は珍しく居ないのだね」
「撒いた」
「・・わ、さすが」
「僕にだって一人になりたい時ぐらい、ある」
「・・・あーっと」
「てかあいつらウザいので」
「なはは」
は僕の話を面白そうに聞いて笑った。下らない。
いつもこうだった。ごくたまに僕がひとりで裏庭とか中庭とかに来ると
こいつもぼんやりと立っていて、やぁやぁリドルくん、と言うのだ。
別にはいつもそこにいるわけじゃなくて、いつもは普通に
友達と一緒に喋ってたりふざけてたり宿題してたりするのだけど、
僕がひとりでいると結構こいつもここに居たりする。面倒くさい。
面倒くさい、と呟くと彼女は立ち上がってこっちを見た。
聞こえたのかと思って少し身構えたがそんなわけないと思い直した。
僕が聞こえないように呟いた言葉が他人に聞こえるわけ無いんだ。
「じゃあね」
「・・は?」
が、はにこりと笑ってそんなことをほざいたのだった。
やっぱり聞こえたのだろうかと僕は珍しく疑問というものを感じた。
しかし、聞こえたの?と尋ねると、彼女は、何が?と言った。
意味がさっぱり分からなかった。分かりたいと思った。
分かりたいと思った。珍しい話だ。どうでも良いのだけれど。
きっと僕は今、暇で暇でしょうがないのだろう。きっとそうだ。
「何で?」
「え?や、ひとりになりたいと仰ってましたので」
「ああ・・(だったね)」
「ごめんね」
「いや、」
良いよ、と言おうとした。どうして?
頭の中で気の利いたほどよく嫌味なセリフに置き換えて声を発する。
「・・そんなこと気にするタイプだったわけ?」
「ふふふまあね」
「ふうん」
「うわ嫌な感じ」
「まあね」
「・・・」
は、はあ、とためいきを吐いてもう一度じゃあね、と言った。
そう言って向こうに振り返ったの黒い髪が、伸ばした僕の手を撫でた。
なので僕は思わずその髪を掴んでしまった。ロマンも何も無い。それだけだ。
「あだっ!」
「あ(あっちゃー)」
「な、何すんだこの!反抗期!?」
「アホだね」
「いや何なわけよ」
「ああ」
僕は掴んだの髪を少し引っ張った。は少し頭を傾けて受け流した。
何て言えば良いのか分からなかったので僕は少しの間黙っていた。
は言った。今何を思ってるのか言ってみれば良いから。
「何て言えば良いのか分かりません」
「え」
「と思ってる」
「あー」
は戻ってきて僕の隣に座った。僕はの髪を放さなかった。
彼女は別に何も言わずに掴まれた髪の毛をちらりと見た。
「何か悩みでもあるの?リドルくん」
「あるわけない」
「・・ですよねー」
苦々しそうな顔で笑って見せたはいつもと変わらずにいた。
よく分からなかったけど僕は別にそれで良かった。それが良かった。
「リドルくんさ、」
「ん」
「あたしみたいなアホな人間て嫌いなんじゃないかと思う」
「・・・」
「何か今もそれが分かってて話しかけるかよ普通!って顔してるし」
「当たりだね」
「あいたたたー」
「そうだったよ。何で」
分かったの?と聞く前にはあたしはリドルくんみたいな孤高の人間て
格好良いと思って憧れるんだけどそういう人はあたしみたいな愚かな普通の人間が
嫌いなんだろうなって思ったんだ。と言ってにかりと笑った。
「孤高の人間?」
「うん」
「そう見えるのかい僕は」
「いいえ周りにたくさん取り巻きが」
「・・矛盾してるけど」
「ですよねー」
は苦々しげに笑って、よく分からないなと言った。こっちが分からなかった。
孤高の人間だというのはきっと僕に最適な表現だけど、それがに分かるはず無いだろうと思った。
「でも今はそんな顔してたよ」
「そんな顔って」
「え?あ、あれ。それが分かってて話しかけるかーって顔」
「ああ・・かもしれないね」
「そうハッキリ言われるとへこみますね」
「そう?」
「んー・・や、微妙」
「微妙って」
「リドルくんが素だったってのなら嬉しいな」
「素、ね・・」
「なわけないかー」
「そうかもしれない」
「そ、そうかな?どうだろ?」
「微妙」
微妙ね、うんそっか。とにやっと笑っては生えていた草をむしった。
その行動に特に意味は無かったがそれはとても自然で良いものだった。
「そういえば」
むしった草を空にが放り投げるのを見ながら僕は言った。
放り投げられた草はぱらぱらと空に舞って還って来てローブの上を汚した。
「改名しようと思ってる」
「は・・は!?改名!?」
「どうしてそんなに驚くのさ」
「・・いや、それは。てかリドルくんて昔から自分の名前嫌いだね」
僕が驚いてをみつめると彼女はあはは、と意味も無く言った。
あたしは素敵な名前だと思うけど、反応悪かったからさー。
「そう?」
「うんもうかなりね!殺されるかと思ったね」
「(バレてたのか)」
「あたしは素敵な名前だと思うの。それだけ」
「ふうん。ヴォルデモート卿っていうのはどう」
「え、偉そうだな・・」
「卿だしね。ただの並べ替えだけど」
「・・うーんと?まあ君がそう言うんだったらなるんだろうなぁ」
「卒業したら改名する」
「そっか・・あたしトムリドルってのも好きだけど」
「どこが良いのそんな名前」
「響き・・とか?」
「適当だね」
我ながらかなり冷たい声で言ったような気がした。は肩を落として俯いた。
はもうこの話は終わりで良いんだという顔をしていたけど、僕は彼女の髪を引っ張った。
あいたーとわめきながらはこっちを向いた。涙目で少し笑えた。
信じないだろうけど、と前置きしてから僕は自分の名前が嫌いな理由を話した。
どうして赤の他人にこんなことを話しているのか不思議だったけど止まらなかった。
実は創設者の血を引いてますとか父に捨てられましたとか聞いても相手はどうしようもない。
そんなことも分かっているんだけどはどうにか出来そうな顔をして真剣に聞いていた。
どうするって言うんだ、というかそれ以前に信じているのかこんな話を。愚かな女。
「・・と、まあそんなわけで」
「うーん・・」
「名前嫌いでも許してくれるだろう?」
「そ、そりゃあそんなのあたしがどうこう言うもんじゃないし!」
僕は頷こうとしたけど、何だか寂しかったのだと思う。突き放されたような気が少しだけした。
あたしがどうこう言うもんじゃない、と彼女は呟いた。でも、や、でもね。とも。
まだ何か言う気なのか。どうこう言うもんじゃないと言っておきながら。愚かだ。
が口を開きかけてまた閉じるのを見ているとそれは息の出来ない魚のようだった。
僕は彼女が息をする事をそれはそれは望んでいると言うのに。待ってるんだ。
「待ってるんだろうね僕は」
「な、何を」
「が何か言ってくれるのを。多分」
「・・・はは」
「笑うなよ」
「えへへ」
はにやっと笑って、リドルくんあたしは嬉しいよと言った。
何が嬉しいのかさっぱり分からなかったけれど愚かな女は嫌いなはずだけれど僕は
彼女の言葉だけをもう長い間待っていたような変な気分で黙っていた。
「えっとあたしは、あ、これあたしが勝手に思ってるだけで別にそういう・・」
「分かってるから。何?」
「ええと、ああ名前と言うのはね、アイデンティティなの」
アイデンティティ。
人間学・心理学で,人が時や場面を越えて一個の人格として存在し,
自我の統一をもっていること。自我同一性。自己同一性。僕自身?
「えっと、という名前で定義付けられているあたしはその時点でだし。
リドルはあたしにリドルくんと呼ばれていてリドルくんと認識されてて。
そういう意味で名前って言うのはみんな持ってるアイデンティティだと思うんだ。
あたしの話の意味分かる?馬鹿みたいだよね。まあ勿論それだけじゃないよ?
別に名前だけがあたしじゃないし名前なんてほんの一部なわけ。でも、
名前って言うのは一番最初のアイデンティティだと思うんだ。一番基本のものだって。
一番分かりやすくて一番よく使われて実は一番意味の無いアイデンテイティ。
だからどうしたって話なんだけど、あたしはもしリドルくんが名前を捨てちゃったら
お母さんからトムリドルとそう認識されてたっていうのを薄くしてしまうってことだし、
あたしがリドルくんと呼んでいるのを放棄してしまうみたいで寂しいと思うの。
あ、これはあたしが寂しいだけかな?そんな気もしてきちゃったな。あはは。
まあそんな感じのすごく個人的な考えなんだけどね。ただ寂しいんだ。それだけ」
は本当にひどく寂しそうな顔をしていた。僕は少しうろたえて、そんな自分に驚いた。
名前なんてそんな大した事じゃないだろう?と僕はの髪を撫でて言った。
彼女はうーん、と言って少しだけ微笑んで頷いた。寂しいだけだねと言った。
「全部寂しいだけだ」
「どうして」
「どうしてって・・寂しいんだよね、あたしは。
君が名前を嫌いなこともそれを捨ててしまうこともどうしようも無い理由なんだってことも。
後は、リドルくんが名前と一緒にあたしたちまで捨ててしまうんじゃないかってことも」
「・・はい?」
「だーもう何言わせてんだー!」
「言わせてないから」
「だからさ!リドルくんが名前と一緒にあたしと喋ってたリドルくんとか
みんなに優しいリドルくんとかを捨ててしまうんではないかと、ああ意味わかんないね」
「分かるよ。どうして、分かった?」
「え」
「何でそれが分かったんだい?」
「・・・」
の見開いた瞳孔に薄く微笑む自分が映っていた。何でかなぁ、とは言った。
分からないままでいても良かったかもしれないし言わなきゃもっと良かったかなぁ。と言った。
「微妙」
「び、微妙なの・・?」
「うん。引き止めないの?僕を」
「あ、あたしなんかに引き止められるものかー!」
「微妙」
「え、ええ?微妙なの?」
「ものはためし」
「は!?え、マジ!?」
の見開いた瞳孔に僕が映っていた。希望をもたせて潰すのは大好きだった。
「みんなを捨てないでくれるのかな・・」
「を捨てるな、と言ってみれば」
「ええー・・無理だろー・・」
「ものはためし」
「え、じゃ、じゃあ、」
あたしのことを捨てないでくれますか?希望をもたせて潰すのは大好きだった。
大好きだった、って。過去形?
「ああ」
がそう言うんだったら、別に良いような気もした。
いつからこんなに下らない人間に成り下がってしまったのか。僕は少し笑った。
が僕の名前を好きだと言うのならば本当はそれさえもどうでも良くなってしまいそうだった。
「う、うわぉ・・」
「もう良いや。うん」
「何が良いのか実は分かんないんですけど」
「でも改名はしたい」
「えー・・勿体ない・・」
「僕はやっぱりこの名前はいらない」
「ふーん・・まあ名前なんて大した問題じゃないさ!」
「は?」
「そうだね!そうだよ!」
「何かさっきと言ってる事違いません・・?」
「さ、さっきはみんな捨てられちゃうんじゃないかと言うのが本題でしたの」
「ふうん?」
「でも良いよもう。あたしが君のアイデンティティになろう」
「・・は?」
「おこがましいけどね、あたしが君のアイデンティティになろう」
「意味わかんない」
「リドルくんのくせに」
「またもや分からない」
「届いてくれあたしの想い!」
「いやぁ・・」
それからが死ぬまでずっと、僕はリドルのままでいた。それはただ、のためにそうしただけだ。
彼女が死んで、僕は名前を言ってはいけなくなった。名前なんて要らなかった。必要なのは、貴女だった。
031013(わっかりませーん!)(自分で書いといて言うかよ)
031115(書き直そうと思ったけど意味不明すぎて無理でした。あんま変わってません)